1761年、ドイツ・ニュルンベルク郊外で家具職人カスパー・ファーバーが鉛筆の製造を開始した。小さな家族経営から始まったこの会社は、240年以上を経た現在、確かな品質と価値を提供する筆記具メーカーとして世界中からその名を知られている。 「ファーバーカステルはブランドコンセプトとして4つのテーマを持っています」――そう話すのは、ドイツ本国から来日した広報部責任者のサンドラ・スッパ氏。その4つとは、「伝統」、「革新」、「品質」、そして「環境」だ。 |
冒頭に書いたように、ファーバーカステルの創業は1761年。世界で最も古い筆記具メーカーとして知られており、伝統はブランドイメージを担う重要な要素といえる。しかし同時に革新性のある事業への取り組みも特徴の1つであるという。 例えば、消しゴム付きの鉛筆と、シャープナー機能を備えたキャップとをセットにした「パーフェクトペンシル」は、消費筆記具の代表的な存在だった鉛筆に“特別な高級品”としての付加価値を与えた。従来にない高額な価格設定にもかかわらず好評を持って迎えられ、現在も文具ファンから羨望のまなざしを向けられる存在となっている。 |
また、「生産数」ではなく「生産期間」を限定して毎年販売する最高峰モデル「ペン・オブ・ザ・イヤー」の展開など、伝統のスタイルに安住することなくブランドに新しい風を吹かせ続けている。 |
さらに、同社を語る上で忘れてならないのが品質の追求だ。鉛筆においては、芯を形成するための粘土と水を厳選していて、その違いは滑らかでひっかかりのない書き味に表れている。また芯の強度に関しても、品質検査に合格しなかったものは出荷しない。 「さらに色鉛筆には、こうした点に加えて重要な要素があります」と続けるスッパ氏。その要素とは時を経ても鮮やかさが持続する、優れた“耐光性”だ。質の良い顔料をふんだんに使うことが、経年劣化を防ぐためのポイントだという。 もちろん鉛筆だけでなく、高級モデルにもその精神は息づいている。ドイツ国内の熟練工の手によって、プラスチックなどを使わずプラチナやゴールドといった貴金属で作られたそれらのモデルは、ずっしりとした重みからそのこだわりを知ることができる。 |
最後に「環境」――世界で年間20億本もの鉛筆を販売する同社だが、必要な木材の8割以上は、ブラジルにある10万ヘクタールもの植林地で栽培された、成長の早い針葉樹が使われている。「自社でこれだけの植林地を持っている筆記具メーカーは、ファーバーカステルだけ。環境への取り組みは、他社に先駆けていると自負しています」(スッパ氏)。また木軸鉛筆の塗装には環境に配慮した水性塗料をつかうなど、自然と筆記文化との未来を長期的なスパンで見据え、行動している。 |
PCや電子メールの普及で“文具離れ”が懸念される一方で、高級文具に対する注目の高まりなども指摘される文具業界だが、スッパ氏はまず、「インターネットと筆記具は共存できるもの」と話す。 「1970年代、PC社会の訪れが現実的に語られだしたころですが、紙やペンは姿を消すといわれていました。けれど現在、私たちはPCを使いながらプリンターで多くの紙を消費しますし、それにペンで書き込みを施します。また今後は発展途上国が教育にいっそう注力することで筆記具の需要が高まり、色鉛筆の市場なども拡大するでしょう」 「高級文具に関しては、電子メールなどの登場で、手書きに対する“特別感”がでてきたことが影響しているかもしれません。特別なメッセージを、“何で書くか”ということが注目されているのだと思います」 |
取材・文/+D Style
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング