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現在に通用する質感と性能、そして一芸――ニコン「COOLPIX950」矢野渉の「クラシック・デジカメで遊ぶ」(2/2 ページ)

» 2010年11月19日 17時49分 公開
[矢野渉,ITmedia]
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今でも語り継がれる一芸「驚異のマクロ機能」

 E950が支持された理由は「徹底したボディの作り込み」だけではない。撮影機能で「一芸」とも言える特徴を持っていた。それが「マクロ機能」である。この35ミリ判換算で38〜115ミリのズームレンズは、ミドルポジション、つまり60ミリあたりで最も撮影倍率が高くなる。レンズ前2センチまで寄れるのだ。よくあるワイド端でのスーパーマクロとは次元が違う。被写体にパースをつけることなく、キレイなマクロ撮影が可能なのだ。

photo COOLPIX 950のレンズは“ZOOM NIKKOR”の7-21mm F2.6-4。明るい割にコンパクトなレンズだ。インナーズーム、インナーフォーカスで全長が全く変化しないのでマクロ撮影がしやすい

 そのころ僕のまわりにいたPC雑誌の編集者達は、E950をほとんどマクロ撮影用に使っていた。PCのマザーボードを外すとき、フロントパネルとつながるコネクターの複雑な配線を撮影しておき、組み直す時の確認用にしたり、基板上の小さなチップの、肉眼で読めないようなシルク印刷を撮影し、PC画面上で拡大して型番を読んだりしていた。

 そのような使い方はいわゆる「写真」の概念からは外れるのかもしれないが、多くのカメラメーカーが戦時中の照準器や潜望鏡、あるいは顕微鏡にルーツを持っていることを考えれば、実用で使えるマクロ機能を付加できるメーカーは、本当の意味での光学メーカーと言えるのかも知れない。

photo ワイドコンバーター「WC-E24」。35mm換算24mmレンズとして使える。ハイエンド機だけあってアクセサリが充実しているのも見逃せない。

寄って寄って、寄りまくって遊ぼう

 E950に電池を入れたら、まずそのフォルムを楽しもう。グリップの具合、スイバルのカチッとした感触を確かめ、ボディをクロスで拭いてみたりするのもいい。近くに年長の人がいれば「懐かしいですね」と声を掛けられるかもしれない。

 撮影は、特に場所を決める必要もない。身の回りにあるものを撮る。ただし、寄る。マクロいっぱいまで寄る。すると、いつも見ていた日常の風景が一変するのだ。マクロのなかにある宇宙を見てしまったような気分になる。

photo 一部の人には懐かしい写真。各社のデジカメのマクロ機能の比較でよく使われた被写体だ。液晶のドットがちゃんと写る機種はまれだった
photo この時代の映像エンジンに画像を描き直す力はない。カッチリとした描写はレンズの優秀さによるものだ

 E950でマクロ撮影をするときには、2つの注意点がある。まず、2インチポリシリコン液晶の発色を信用しないこと。激しく緑かぶりしている。その色を基準に考えると撮影が嫌になるほどの色だ。脳内で変換して見るか、どうしてもという人は液晶に20M(20%マゼンタ)のゼラチンフィルターを貼りつけたほうがいい。

 もう1つはマクロ撮影時の合焦の遅さだ。マニュアルフォーカスでは10センチまでしか寄れないので、オートフォーカスに頼るしかないのである。ただしデジカメによくあるような、最短撮影距離と無限遠を何度も行ったり来たりして、結局ピントをはずす、というようなものではない。E950は、100%ピントが合う。しかし、そこまで辿りつくまでにちょっと時間がかかるだけなのだ。

 被写体をフレーミングしてシャッターボタンを半押しすると、E950はしばらくじっとしている。ここで諦めてはいけない。おそらく何かを分析中なのだ。やがてちゅうちょなくピントを合わせ、その後二三度ほんのわずかな微調整をしたあと、合焦のグリーンランプが点灯する。

 とにかくE950を信じて待てば良い。結果は裏切らない。

photophoto 絞り開放での撮影。撮影時はピントも露出もよくわからなかったが、上がった写真は見事なものだった。1600×1200pixelの画像ながら、気持ちのいい解像感がある。
photophoto ほとんど白に近いピンクの薔薇。ピンク色がきれいに発色している。右はワイコン使用。晴天の日陰部分も黒ツブレがない。2分の1インチ211万画素CCDはダイナミックレンジに余裕があるようだ。

 おそらく「マクロ」という特技で、今だに現役で使用されているであろうE950。あらためて使ってみて、そのポテンシャルには驚かされた。

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