一眼レフの世界には「大三元レンズ」と呼ばれるレンズ群がある。まあ麻雀用語から来ていて、そろえば役満になりそうな3本のズームレンズを指す。広角ズーム、標準ズーム、望遠ズームそれぞれで、価格や大きさよりもクオリティや実用性重視で設計された、ハイエンドで、一般的には開放F値がF2.8通しで、防じん防滴のプロ向けのレンズ。それらを3本合わせると、超広角から望遠まで一通りの焦点距離がそろうことからそう呼ばれているわけだが、一般ユーザーは(カメラにお金をかけられる道楽者を除けば)そうそう手を出せるものでもないので、ミラーレス一眼でそこまでそろえるメーカーって今までなかなかなかったのだ。同じマイクロフォーサーズのパナソニックが似た感じの焦点距離とスペックでそろえていたくらい。
オリンパスはプロユーザーを多く抱えていることもあり、ここ2年でそこを充実させてきた。まず標準ズームの12-40ミリ(35ミリ判換算で24-80ミリ相当)、続いて望遠ズームの40-150ミリ(80-300ミリ相当)とF2.8通しのハイエンドズームレンズ(PROシリーズ)を投入し、とうとう今回最後の1本、7-14ミリ(14-28ミリ相当)が出てきた。それが「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」である。
一眼レフ界の「大三元レンズ」は1本20万円クラスで大きくて重いのだけど、マイクロフォーサーズはセンサーサイズが小さいこともあって価格は10万円台後半でレンズもコンパクトで携帯しやすいという非常に有難い側面があり、いいレンズを使えばマイクロフォーサーズ機でもすごくいい写りを見せてくれるのだ。
14-24ミリ相当という超広角ズームなので、前玉は大きく飛び出ており、フィルターは付けられない。重さは534グラム。マイクロフォーサーズのレンズとしては大きくて重めだが、スペックを考えるとコンパクトで携帯性が高くて驚くくらい。
鏡胴にはフォーカスリングとズームリングを装備。ズームはレンズの全長が伸びないので被写体に寄って撮るときも安心。
フォーカスリングは他のPROシリーズ同様、手前にカチッと引いてずらすと距離目盛りが現れ、マニュアルフォーカスに切り替わる(MFクラッチ機構)。これは一瞬でAFとMFを切り替えられてとても便利。たとえばAFでいったん合わせてMFで追い込みたいときも、あるいはAFでフォーカス位置を固定してそのまま置きピンしたいときもワンアクションで済むのがよい。フォーカスリングのトルクや回転角もほどよく、MFは快適だ。
ただ、このクラッチがちょっと軽めなので、レンズ装着やバッグからの出し入れ時にフォーカスリングがずれてAFからMFに切り替わってしまうことがある。慣れてしまえばすぐ気づいてAFに戻せる(あるいはその逆)のでよいが、最初はとまどうかも。ズームリングはほどよい重みで回るので扱いやすい。
さらに「L-Fn」ボタンが1つ装備されている。このキーはカスタマイズ可能なのでこのレンズを使うとき便利なものに割り当てておくとよい。左手でレンズを支えた状態で押せるので、プレビューやAFロックなどに割り当てると便利だろう。
気になる描写力は竹藪写真で。
ディテールの解像感は非常に高く、超広角レンズでは流れがちな周辺部もしっかりしており、さすがPROレンズのクオリティ。オリンパス唯一のマイクロフォーサーズ用広角ズームに、「M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6」という廉価でコンパクトで軽量なレンズがあったが、あれと比べると写りは雲泥の差だ。特に周辺の色収差が抑えられていてよい。
JPEGでの評価(収差が少し補正されている)だが、RAWデータでもかなり良好だ。
少し絞るとさらにキリッとした写りを楽しめる。F5.6で撮影。ディテールを見るには松の枝がいい。
同じ位置で14ミリ(28ミリ相当)。
撮影最短距離は20センチ。レンズ先端から約7.5センチまで寄れる。
これでキヤノンのPowershot G3 XをEVFにフォーカスして撮ってみた。ぐっと寄れる上に極端な遠近がついて面白い絵になる。質感も周辺の流れ方もいい。
モニターを開いてローアングル撮影が気軽にできるのもミラーレス機の良さ。広角ならではの背景の広さを楽しむには上下のアングルは大事。天候に恵まれなかったけど、曇天ならではのどよんとした中にピンクの花をあしらってみた。
周辺画質の劣化が少ないと、メインの被写体を多少端においてもOKになる。するとなんてことない絵でも印象的になる。
アートフィルターのヴィンテージを使って、古民家前にあった履き古した下駄を。
より遠近感を強調するなら縦位置。手前の線香にフォーカスを合わせてみた。後ろに見えるのは赤穂浪士の墓所。
マイクロフォーサーズはアスペクト比が4:3なので縦位置でのおさまりがいい。逆に横位置の時は、もうちょっと横長の方が広角感が出て面白いかなと思う。
お次は古民家で囲炉裏。外光のみのがうっすらと差し込む暗い部屋。奥にある囲炉裏のシルエットがきれいだったので、7ミリで中央にぽつんとそれを置き、-2の露出補正でシルエットだけにしてみた。
超広角といえばやはり室内でも撮りたくなるよね、ということでこちらも古民家。名主の屋敷で明治時代の台帳を見ながら、台帳にフォーカスを合わせて。
続いて、杉並区の和田ポンプ場の地下施設。豪雨時の雨水を逃がす施設の見学会で撮影したものだ。
鎖のシルエットに心惹かれ、ローアングルで縦坑を狙ってみた。モニターを見ながらの撮影だが、ボディ内手ブレ補正がよく効くのでこのくらいなら手持ちでいける。
もうひとつ排水ポンプ施設。狭いところで7ミリというのはその極端な遠近感がたまらない。
近距離撮影だとより遠近が強調される。
びっしりと奉納された招き猫群を見たとき、これは真上から狙うと面白そうだということでモニターを開いて電子水準器をチェックしながら撮影。
最後は防じん防滴だからということで、雨の中。アジサイと水没した緑道。
この緑道は水ハケが悪く、ちょっと雨が降るとすぐ水没して川になってしまうのであった(まあ、もともとが川だった暗渠なんだけれども)。しゃがんで低い位置から。
というわけで、このレンズはPROの名にふさわしい質感と写りを持った大三元の一角を担うに相応しいレンズ。12-40mm F2.8(これはもうハイエンドユーザー必須といっていい)では広角側がもの足りないという人に福音となるだろう。
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