紙のリプレースではなく市場の拡大――ハイブリッド型総合書店「honto」が目指す先(2/2 ページ)
多くのユーザーがリアル書店とオンライン書店をその時々で使い分けている日本。そんな日本市場では、「honto」が指向するハイブリッド型総合書店こそが利用者にすばらしい読書スタイルの提案ができ、出版市場自体を大きくできるとトゥ・ディファクトの小城武彦氏は言う。
「honto」が三位一体でサービスを提供するメリット
hontoが新たに展開するサービスのポイントは、ジュンク堂や丸善、文教堂といった複数のリアル書店チェーンとの連携にある。6月には、3チェーンで共通のポイントカードを導入し、会員情報をhontoのIDとひも付け、1つのIDでリアルな書店とオンライン書店、電子書店が一体となってCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)を行う。
リアル書店がCRMに加わるメリットとして小城氏は「より嗜好性の強い雑誌の購入履歴が組み込めるようになる」ことを挙げる。またユーザーの読書ライフを豊かにするため、書店員が持つノウハウも生かす。例えば書店のお勧め、書店員のレビュー、店頭POPなどだ。店頭POPはオンライン書店でも閲覧を可能にしていく。オンライン書店だけではつかみきれない生活者の趣味や好みをより深く取り込み、リアル書店と連携して利用者のためになるサービスを提供する考えだ。これにより専業のオンライン書店や電子書店などとの差別化につなげる。
「今までリアル書店では、CRMというものはほとんどしてこなかった。これまでは、店を開けて、ただひたすらお客さまが来るのを待つしかなかった。そこで、よく行く店舗でリコメンドや案内をする仕組みを導入する」(小城氏)
すでにリアル書店に蓄積された、過去7年間にわたるレシートのデータから、書店で販売された5億件の併売情報は収集済みだという。レシートの情報からは、購入した個人は特定できないが、どの雑誌とどの書籍が一緒に購入されているのか、といった情報が記録されており、こうした情報を分析して販売の傾向などをつかみ、今後のリコメンドなどに生かす。またhontoのWebサイトでは、ユーザーが行きつけの書店を登録する機能を用意。顧客の情報をリアル書店と共有し、書店側からユーザーにさまざまな提案ができる機能を実装した。
今後は蔵書管理サービスも提供予定で、書店で購入した本の情報がネット上の自分の本棚に入るような仕組みを開発する。リアル書店の在庫検索機能と、その場でワンボタンで取り置きが依頼できる機能なども実装予定だ。紙の書籍と電子書籍のハイブリッド商品を提供も準備するほか、在庫切れの際はPrint on Demand(POD)を活用して印刷したり、紙の書籍が届くまでの間、電子書籍を読んでいてもらうようなサービスも検討中だ。
オンライン書店では電子書籍も紙の書籍も買えるようにしており、電子書籍版がない場合はリクエストする機能も用意する。この機能は、版元にフィードバックする機能ではなく、あくまでも電子書籍版が配信された際にユーザーにメールなどで通知するためのものだが、「読者の声」として版元に届けるようなことも検討するという。
「リアルな店舗とネット、紙の本と電子の本を組み合わせて、ユーザーが満足するサービスを提供していきたい。電子書籍が主流になると、出版市場はどうなるか、とよく聞かれる。ITはリアルな世界をリプレースする、デジタルはアナログな世界をリプレースする、とよく言われるが、hontoの三位一体のサービスを機に、もっとすばらしい読書のスタイルを提案し、出版マーケット自体を大きくしていく」(小城氏)
大日本印刷とNTTドコモも期待を寄せる
大日本印刷 常務取締役の北島元治氏は、「大日本印刷は、長らく出版業界に対して、印刷という製造プロセスで協力してきたが、近年は書店などを通して出版流通にもかかわるようになった。急速に進むデジタル化、ネットワーク化の中で、出版を取り巻く環境は大きく変わっている。新たな環境に対応した新しい読書体験を届けるため、そして新たな環境における書籍を考えるため、我々のサービスも、今後も変わっていかなくてはいけないと思っている。今までのビジネスで培ってきた知見を生かし、デジタル流通の新しい形も模索していく」とあいさつ。ハイブリッド型総合書店はその中核を成すものであり、電子書籍を読むという新しい体験や、今まで出会えなかった本との出会いやデジタルならではの表現との出会い、手軽に本を買えたり読んだりする体験などが、読書体験の幅を広げるものだと北島氏。「知的生産物である本をさまざまな形で生活者に体験してもらえる書店としてhontoを成長させていきたい」と話した。
NTTドコモのユビキタスサービス部長、高原幸一氏は、ドコモが2011年度にスマートフォンとタブレットを800万台以上販売したことから、「電子書籍をモバイル環境で読むという環境がだいぶ整った」と自信を見せる。ドコモが大日本印刷、丸善CHIホールディングスとともに進めてきた2Dfactoのプロジェクトは、このスマートデバイスの普及に合わせて、位置付けも大きくなっていったという。ドコモとしても、おサイフケータイのようなデジタルとリアルの世界をつなぐさまざまな取り組みを行う中で、「リアルとの連携は、モバイルだけでは提供できない大きな価値が提供できる」と考えていることから、ハイブリッド型総合書店のhontoは「書店とモバイルを連携させ、新しい価値を作っていくという大きな取り組み」と胸を張った。実際ドコモはhontoを重要なものととらえており、2012年夏モデルの中にもhontoのアプリをプリインストールするなどしてhontoを後押ししていく考えだ。
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