テイラー氏、MSの対Linux戦略を語る(2)

Microsoftの対Linux戦略を担うマーティン・テイラー氏へのインタビュー後半では、Linuxに対する敗北や勝利などについて聞いた。(IDG)

» 2004年09月24日 20時11分 公開
[IDG Japan]
IDG

 マーティン・テイラー氏は先ごろ、Microsoftの対Linux戦略の責任者という立場に就任して1周年を迎えた。同氏の正式な役職名はプラットフォーム戦略ゼネラルマネジャー。Computerworldでは同氏に取材し、この職務の1年目について話を聞いた。今回はインタビューの後半をお届けする。前半はこちら

―― Linux関連の活動について、あなたが最も注目してきたサーバワークロードは何でしょうか?

テイラー Linuxが最も利用されてきたのはWebサーバワークロードです。またUNIXの場合は(アプリケーションプラットフォーム)ワークロードが一番多い用途です。Meta Groupは最近、UNIXとSAPまたはPeopleSoftの組み合わせからWindowsに移行した24人のIT担当者と企業の意思決定者に対して調査を行いました。彼らは、(移行により)必要なサーバの台数が約50%減り、管理費と所有コストが50%削減され、信頼性・拡張性・可用性が25%高まったとしています。当社が向こう1年の多くの活動を展開する前にMetaに調査を依頼した理由の1つは、「われわれの価値命題は何か? 人々は本当に恩恵を受けているのか? Windowsを使いたがらないUNIXユーザーからどうやって支持を得るか? 徹底したコスト削減を実現できるか?」を理解する助けになるものが必要だからです。

―― 今のあなたの仕事は、「OSの乗り換えを検討している人々が、Microsoftを選択肢に入れるようにすること」だととらえていますか?

テイラー ええ。興味深い仕事です。それが私の唯一の仕事ではありませんが。ただ、今年もっと力を入れて取り組みたい仕事の1つは、「あなたたちは今UNIXを使っているけれど、Windowsも少しは検討するべきですよ」と説得することだと思います。

―― そのような(OSの乗り換えを検討している)人たちをどうやって見つけるのですか?

テイラー OSの決定が下される場合、たいていはMicrosoftの担当者が関わることさえありません。その理由の1つに、当社の文化はデスクトップとローエンドサーバから形成されたものだということがあります。エンタープライズ級のハイエンドな議論をする際に、われわれは呼ばれもしないこともあります。ですが、パートナーを通じて議論に参加するという手段があります。エンタープライズ分野で信頼があり、データセンターと協力しているUnisysのような企業は、「このソリューションではMicrosoftも考慮に入れよう。少なくとも、見もしないで決める前に両方に目を向けよう」と言えます。そこで提携が大きなチャンスをもたらすと思います。

―― あなたにとって最も悩ましかったLinuxへの敗北は?

テイラー 敗北の定義にもよりますが、特定の機会のことを指しているのなら、ミュンヘン市の件ですね。ずっと話題になっていますから。「『結構。そうなってしまったんだから、次へ行く』なんて言えるだろうか?」という気分です。ですが、1年くらい経っても、まだこの件について聞かれることでしょう。子供のころに恐れたジェイソンやフレディのようなもので、湖に沈めても、またよみがえってくるのです。

 私にとって(Linuxに)負けたときに苦痛を感じるケースがあります。コストやセキュリティ、価値に関係なく負けた場合です。ユーザーが単にMicrosoft以外の製品を求めている、というケースです。その点では、私にできることはありません。そうしたケースは納得のいかないものです。当社はできるだけ良い印象を与えようとしていると思っているからです。結局は、当社の価格が2倍だろうが半分だろうが、機能が2倍だろうが半分だろうが関係ないわけです。まったく勝ち目がなかったのです。彼らはわれわれと歩む気がなかったのですから。

 また別のケースは、非常に小さなことですが、製薬会社のように高い技術力を持ち、研究開発が活発な企業と対面した時のことです。「われわれは(ソースコードの外側の)カバーを取りたいのだ。商用ディストリビューションは要らない。自分で開発して、自分でサポートし、自分でリスクを取りたいのだ」と言われました。私は「私には何もありません」と言って部屋を出ました。社内でコストを全部負担して、独自のシステムレベルのソフトを構築したいというのなら、成功をお祈りしますとしか言えません。それは当社の目指す市場ではないからです。当社は、たくさんの人が使えるOSを提供しており、そのためには複雑さを取り除かねばなりませんし、複雑さを入れてはいけないのです。

―― では、最もうれしかった勝利は?

テイラー 顧客が「Microsoftの製品は余計にコストがかかるし、セキュリティもひどい。Linuxの方がもっと多くのことができる」という根深い認識を持っていたケースです。われわれはひたすら時間をかけて、すべての俗説を払拭しています。私は今でも、そうした俗説が多く出回っていることに驚いています。この俗説を裏付ける事実がないのに、多くの人々がこれを信じていることには驚くばかりです。事実を人々に伝え、彼らの目を開かせることができれば、その勝利はうれしいものです。

―― もしも時間を戻せるとしたら、あのときもっと違う行動を取っていただろう、と思うことはありますか?

テイラー 私としては、顧客のフィードバックに基づいて、TCO(総所有コスト)とセキュリティに適切な優先順位を付けたと思っています。ですが、もう1本手があったら、あるいは1日がもう24時間あったら、UNIXからの移行を勧める取り組みにもう少し時間を割いたでしょう。その部分では依然として、Linuxの側から大きな牽引力が見られるからです。実際には、当社にはかなりいい話があります。

―― クライアントOSとしてのLinuxの動きは活発でしょうか?

テイラー 本当に大規模で長期的な導入はまだそれほど目にしていません。私は2日かけて、デスクトップで1つ1つのLinuxディストリビューションを調べてみました。これは一番の時間の有効活用です。(客先で)「どうぞどうぞ、両方を評価してください」と言い残してくればよかったのですから。皆にLinuxを配って、「デスクトップでLinuxを使ってみてください」と言いたい気持ちです。Linuxでは、エンドユーザーは複雑さに直面します。Linuxはデスクトップに対応できる状態とは言えません。いずれきっとその段階にまでたどりつくでしょうが。Linuxは時間をかけて進化すると思います。願わくは、われわれも進化すると良いのですが。

―― 多くの顧客がMicrosoftのライセンスポリシーの不満を口にしていることはご存じですか?

テイラー 私が耳にしたところでは、顧客の不満はずっと少なくなっています。私がライセンス関連の仕事に費やす時間は、1年前の半分になっています。1年前にはこの仕事が第一ということも時折ありましたが、今はまったくそんなことはありません。この2カ月間で3〜4回ライセンスについて顧客と議論したかもしれませんが、1年前は確実にそうした話し合いをしていました。

―― Microsoftは依然としてSEC(米証券取引委員会)への提出書類でLinuxの脅威を挙げていますが、その警告をトーンダウンできる日は来ると思いますか?

テイラー Linuxが消えることはないでしょう。そんなことは起こらないという見方には同意します。Linuxはこれからも何らかの形で存続するでしょう。たとえオープンソースコミュニティーがただLinuxを生かしておくだけという形でも。希望ですが、われわれは負けるよりも勝ち続けると思います。当社はうまく軌道に乗っており、サーバでもデスクトップでもこの勢いが続くと期待しています。

―― 来年は戦略か焦点を変更しますか?

テイラー Microsoftプラットフォームの価値について、もっと革新に関わる話をすることになると思います。当社は引き続きTCO、セキュリティ、信頼性に関する活動の場のバランスに取り組んでおり、それが完全に均等になったら、あとは価値についてのメッセージを打ち出すばかりです。UNIXからの移行の促進にもっと時間をかけ、より顧客の状況に即した質問にももっと時間を割くつもりです。(各種Linuxディストリビューション)対一般的なLinuxの話題がもっと出てくるでしょう。

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