Wal-Mart、RFID対応要求でサプライヤーに寛大な姿勢

Wal-Martは主要サプライヤー100社に対し、2005年1月までに出荷ケース/パレットへのRFIDタグ取り付けを求めているが、この目標を達成できるサプライヤーは少数派だ。

» 2004年11月30日 21時02分 公開
[IDG Japan]
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 Wal-Mart Storesは主要サプライヤー100社に対し、来年の1月までに出荷ケース/パレットにRFIDタグ(無線ICタグ)を取り付けるよう求めている(6月18日の記事参照)。期限は目前に迫っているが、各社が要件を完全に満たすには何年もかかりそうだ、とアナリストらは指摘する。

 ABI Researchによると、Wal-Martの上位100社のサプライヤーのうち、1月までにRFIDの本格導入を完了できるのは約30%に過ぎない。残りの70%は、「スラップ&シップ」と呼ばれる形式的な対応をしながら様子見をしているという状況だ。スラップ&シップというのは、製造プロセスの段階でRFID技術を統合するのではなく、小売業者の要求をとりあえず満たすために配送センターでRFIDタグを貼り付けて(スラップ)、出荷(シップ)することを意味する。

 市場調査会社ARC Advisory Groupでサプライチェーン管理を担当するサービスディレクター、スティーブ・バンカー氏は、「この要求は、部外者が考えていたほど大きいものでも厳しいものでも性急なものでもなかった」と指摘する。バンカー氏は、RFIDインフラに積極的な投資を行ってきた24社の企業(うち19社はWal-Martのサプライヤー)に話を聞いた。

 同氏は当初、これらのWal-Martのサプライヤーは、テキサス州の3カ所にあるWal-Mart指定のRFID対応物流センターに出荷するすべてのケースとパレットにRFIDタグを付けるものと考えていた。だが実際はそうではなかったという。

 「これら19社のうち数社は、RFIDタグを付けたSKU(在庫保管単位)品目数は1ダース未満だった。その中には、Wal-Martのサプライヤー上位8社に含まれる企業も含まれる。サプライヤーは何百種類もの商品をWal-Martに出荷しているが、各社がRFIDタグを付けていたのは平均で20〜30SKU程度に過ぎなかった」(同氏)

 RFID導入要求に対する各社の取り組みが遅れている理由の1つが技術支援の不足である。ABI Researchのディレクター、エリック・ミキールセン氏は報告書の中で、「信頼できるインテグレータが存在しないというのが実状だ。最近になってようやく、Sun、HP、IBMOracle、SAP、そしてMicrosoftが、製品およびスタッフのレベルでこの分野にかかわり始めた」と話す。

 「この技術をめぐっては少し混乱も見られ、一部のベンダーとコンサルタントは期待を裏切った」とバンカー氏は付け加える。ROI(投資利益)見通しもサプライヤーを失望させている。バンカー氏が話を聞いたサプライヤーのほとんどすべてが、RFID技術の導入コストを回収するのに2年以上かかる見込みだとしている。2年以内に投資を回収できると答えたのは1社だけだったという。

 「サプライヤーは、この技術の信頼性がもっと高くなるまで、期待しているメリットの多くが得られないと考えている」とバンカー氏は話す。例えば、RFIDリーダーの信頼性が大幅に向上する必要があるという。

 ARC Advisory Groupの概算では、タグの単価を20セントとすれば、年間5000万ケースをWal-Martに出荷する企業の場合、RFIDタグのコストは1000万ドルになる。加えて、RFIDインフラの構築に100万ドル、さらに倉庫管理プロセスの変更(従業員の追加を含む)に50万ドルの経費を支出することになる。

 では、巨大小売企業のWal-Martは失望しているのだろうか。100%準拠が目標だというのは今も変わりはないが、同社の広報担当者ガス・ホイットコム氏によると、当初からある程度の柔軟性を計画に織り込んでいたという。

 「この計画には多数の企業が参加する見込みだ。上位100社のサプライヤーの中で、2005年1月という期限を免除されたのはわずか2社だ」とホイットコム氏は話す。1社は、ほかの企業に買収されたのが理由だ。もう1社は、社内システムの全面的な切り替え作業の最中であり、その上にRFIDの導入まで行うとなると大変だからだ、と同氏は説明する。

 Wal-Martの上位100社のサプライヤーのうち残りの98社は、来年1月のRFID導入計画に参加する予定で、そのほかにも38社のサプライヤーが第1陣のRFID対応サプライヤーグループに自主的に加わった。

 ホイットコム氏によると、柔軟性というのは、タグが付けられる出荷ケースの割合に関するものだ。Wal-Martではサプライヤー各社と個別に話し合いを行い、テキサス州の物流センター向けのケースとパレットの全数にタグを付けることが可能かどうか検討してきた。

 「この部分については、当初から柔軟性を持たせていた。各社に100%準拠を求めたのは、最終的にその目標に到達できると考えたからだ。しかしサプライチェーンが対応できないとか、大々的な変更が必要になるといった答えが返ってきた場合には、『では、どのくらいなら現実的に可能なのか教えてほしい』という姿勢で臨んできた」と同氏は説明する。

 ホイットコム氏によると、現時点でのWal-Martの推計によると、1月末までに136社の参加サプライヤーが、テキサス州の3カ所の物流センターに出荷される製品ケースとパレットの約65%にタグを取り付ける見込みだ。

 アナリストによると、ある程度の余裕も必要だという。

 「Wal-Martは、2005年1月1日までにこの戦いに勝利できるとは元々考えていなかった」とミキールセン氏は指摘する。

 「同社がやったのは、標準の開発と技術革新が進められている間に、この技術への理解を深めるよう市場パートナーを促すインセンティブ構造を構築することだった。Wal-Martの目標は、パートナー各社のビジネスプロセスにRFID技術を統合させることにある」(ミキールセン氏)

 バンカー氏が話を聞いたサプライヤーによると、Wal-Martは遅れに対して寛容な姿勢を示したという。「サプライヤー各社は、最初は小さな規模で導入して技術を学び、効率的に実施するためのノウハウを獲得するのに従って導入を拡大するという議論を展開した。Wal-Martはこの主張を聞き入れた」とバンカー氏は話す。

 Wal-Martは期限に寛容な姿勢を示してはいるものの、サプライヤーはほっと一息ついているわけではない。「私が話したサプライヤーは、Wal-Martとの約束を守るために最大限の努力をしている。彼らは口約束を果たそうと骨を折っているのだ」(バンカー氏)

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