前進するHPの「Darwin」とアダプティブ戦略(2/2 ページ)

» 2005年02月24日 10時38分 公開
[IDG Japan]
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 HPがDarwin構想を展開するにつれて、そのアーキテクチャではサーバやストレージ、ネットワーキングなど、インフラを構成する特定のコンポーネントの定義は重視されなくなり、IT自体をサービスとしてとらえる必要性に重点が置かれるようになってきた、とダニエルズ氏は語る。このビジョンは製品ポートフォリオに反映されつつある。例えば、HPが開発中の「Tycoon」というコードネームのリソース配分ソフトは、ビジネスルールではなく市場メカニズムを利用して、企業内のどのビジネス部門がデータセンターに優先的にアクセスするかを決定する。

 Tycoonはユーザーに、データセンターリソースの競売入札に利用できる信用を供与する。サーバに要求が集中すると購入価格が上がり、サーバが空いていると価格が下がることから、市場でモノやサービスを買う場合と同じように、ビジネス部門にはコンピューティングジョブをサーバ間で、あるいは時間的に分散する動機付けが働く。

 TycoonはCERN(欧州合同原子核研究機関)で評価が行われている。同機関は2007年の稼働をメドに建設中の大型ハドロン衝突加速器(LHC)の膨大なコンピューティングニーズの管理手段としてこのソフトを検討中だ。

 CERNはTycoonをLHCプロジェクトで利用することを明言していないが、研究者らは「競売方式のアプローチが研究ネットワークの中で有効かどうかを確かめたいと考えている」とTycoonの評価に協力しているCERNのオープンラボプロジェクトのCTO、スベール・ジャープ氏は語る。

 ダニエルズ氏は、Tycoonは最終的にHP製品として提供されると考えているが、まだ初期段階のプロジェクトであるため、このソフトはまだ同社のロードマップに入っていない。

 Forresterのジレット氏は、HPとIBMはより柔軟なITアーキテクチャを目指す動きの先頭に立っていると見る。こうした変化は不可避だが非常に複雑なため、企業IT部門に広がるには何年もかかるだろうと同氏は語る。

 「データセンターアーキテクチャを見直すこうしたアプローチについて概念的に掘り下げて検討している大企業はほんの一握りしか見当たらない。これまでに私が話した企業は皆、近道を行こうとばかりしているようだ」とジレット氏。「これがいかに複雑かを知れば、彼らはもっと真剣になると思う」

 その複雑さを正面から見据えている企業の1つがオフィス家具製品・サービス会社のSteelcaseだ。同社のCIOジョン・ディーン氏は、20億ドル以上の年商をあげ世界中に1万4000人の従業員を抱える同社のITニーズの解決に責任を持つ。同社に20年以上勤めるディーン氏は、2000年に家具業界の急激な低迷を目の当たりにした。

 「われわれの設備投資は過去50年間の最高水準から一気に最低水準に落ち込んだ」とディーン氏は振り返る。「こうしたショックに見舞われると、俊敏さと適応力が非常に重要になる」

 SteelcaseはHPのサーバやデスクトップPC、ノートPCを長年購入しており、HPがアダプティブエンタープライズの取り組みについてアピールを始めたときにディーン氏は早速注目した。昨年、同氏はSteelcaseのインフラ評価に関するコンサルティングを受ける契約をHPのサービス部門と結んだ。

 「われわれはHPがCompaqとの合併から学んだ成果が彼らのサービスに生かされるだろうと考えた」とディーン氏。「Steelcaseも買収を重ねて大きく成長した経緯がある」

 ディーン氏はHPとの作業から、SteelcaseはITポートフォリオを簡素化するとともに、世界各地でまちまちなビジネスプロセスに評価を加え、地域に応じた違いを設ける必要が本当にあるビジネスプロセスと、標準化できるビジネスプロセスを見定める必要があると判断した。「HPによる評価の結果は、われわれには前から分かっていたことと、盲点だったこととが交じっていたが、優先順位についてのわれわれの考えを改めてくれた」と同氏。「われわれは標準化に関しては、重視する姿勢が足りなかった」

 技術の実装は、組織改革の中では簡単な部分だとディーン氏は語る。だが、ビジネス戦略の見極めと、その達成のためにどんな施策が必要かという判断、そしてITに関する基本方針の決定、つまりITを資産と見るか、コストと見るかといった決定は、一筋縄ではいかない厄介なことだ。HPはその感覚を理解しているとディーン氏は語る。

 「HPは分かっている」と同氏。「そこが肝心なところだ。高度にモジュール化されたアーキテクチャに移行することは自分だけではできない。パートナーがいてこそ初めて前に進むことができる」

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