前進するHPの「Darwin」とアダプティブ戦略(1/2 ページ)

HPはアダプティブエンタープライズ戦略とその要となるDarwinアーキテクチャの説明に苦労しているが、エンタープライズITに対する自社と顧客の見方を転換させようという同社の試みは前進している。(IDG)

» 2005年02月24日 10時38分 公開
[IDG Japan]
IDG

 今月のカーリー・フィオリーナ最高経営責任者(CEO)の解任は、Hewlett-Packard(HP)の戦略プラン全体の行方に暗雲を投げかけた。そうした中、最大のライバルであるIBMとの戦いのカギを握る同社の大企業顧客向けの技術とサービス商品は、今後の大きな焦点になりそうだ。

 IBMが2002年後半に「オンデマンド」コンピューティングのビジョンを打ち出して間もなく、HPはIBMに追随するベンダーの列に加わり、顧客がより機動的で柔軟な技術インフラを構築できるように支援する類似の独自戦略を発表した。

 HPは自社構想を「アダプティブエンタープライズ」戦略と銘打ち、ビジネスニーズとITの統合に向けたロードマップとして策定されたリファレンスアーキテクチャ「Darwin」をその要に据えた。2年後の今、HPの経営陣はDarwinとアダプティブエンタープライズのビジョンの具体的な要素を説明するのに苦労しているが、エンタープライズITに対する自社と顧客の見方を転換させようというHPの試みは前進している。

 今後選任されるHPの新CEOはアダプティブエンタープライズの取り組みを含め、同社の事業展開と市場での立ち位置を検討し直すと見られる。

 しかし、HP幹部は混乱は予想していないと語る。「経営チームと取締役会は戦略に関して一枚岩だ」とHPのソフト担当ジェネラルマネジャーでアダプティブエンタープライズの取り組みを先導するノラ・デンゼル氏は語る。「フィオリーナ氏とも、計画を実行するやり方という点で隔たりがあったにすぎない」

 デンゼル氏は、現行のアダプティブエンタープライズ戦略を3〜5カ年の計画と考えており、取り組みは目標どおりに進展していると見ている。また同氏は、HPはアダプティブエンタープライズのメッセージを訴えることに順調に成功してきており、そこからさらに進んでこのメッセージは称賛を受けるまでになっていると語る。「アダプティブエンタープライズは顧客から大きな反響を得ている。われわれはその意味するところを伝えることには何の苦労もしていない」と同氏。「われわれの話が分からないという理由でわれわれを追い出した会社など1つもない」

 Forrester Researchのアナリスト、フランク・ジレット氏は、HPの取締役会は経営体制の変更に着手したが、Darwinとアダプティブエンタープライズ戦略にコミットしていることを表明してきたと語る。「エンタープライズ市場を攻めるなら、将来のデータセンターがどんなものになり、それがビジネスをどう支援するのかというビジョンを持たなければならない」と同氏。「これまでの経営チームは一丸となってそうしたビジョンをまとめ上げた。フィオリーナ氏が彼らの意に反してビジョンを押しつけていたわけではない」

 HPが鳴り物入りでDarwinを発表したのは、2003年5月のCompaq Computer買収1周年の日だった。その後、このアーキテクチャは次第に人々の目に触れなくなった。IBMの幹部がオンデマンドのスローガンを持ち出さずに発言することはめったにないのに対し、HPのDarwinの取り組みはもっと内向きという色彩が強い(Darwinが同社のPRメッセージにさりげなく登場することもまだたまにある。フィオリーナ氏はOracleの直近のユーザーカンファレンスで行った講演で、HPのDarwinアーキテクチャとOracleのソフト設計の類似点についてコメントした)。

 だが、DarwinはHPが現在も実施中の統一戦略であり、同社は最近、そのビジョンを見込み客や社内の営業とコンサルティングのスタッフに説明するのに使うホワイトペーパーと参考資料を改訂した。

 「Darwinは特定の実装に依存しないリファレンスアーキテクチャだ」とHPのアダプティブエンタープライズプログラム担当副社長、ラム・アパララジュ氏は語る。「われわれは、顧客がITとビジネス環境をリンクするためのマネジメント力の確立を考える手助けをするモデルを提供する」

 「アーキテクチャ」という言葉のせいで、Darwinは実際よりも技術的かつ実体的なものという印象を持たれる。HP幹部はDarwinを、ITシステム設計のための「処方箋」や「アプローチ」と呼ぶこともある。「われわれはDarwinアーキテクチャ全体を、CIO(IT統括責任者)の意思決定プロセスを支援する設計ルールに関するものととらえている」とアパララジュ氏は語る。

 HPが顧客と大規模契約を結ぶときには、考慮すべきファクターが広範にわたる。通常、顧客との検討作業はビジネスプロセスとその技術との関連に関する議論から始まり、高レベルの設計方針に話が進み、最後に特定の技術アーキテクチャが話し合われる。「効果的にコミュニケーションを取るのが大変なこともある。非常に大きなキャンバスに絵を描かなければならないからだ」とHPのソフト・アダプティブエンタープライズ担当最高技術責任者(CTO)ラス・ダニエルズ氏は語る。

 「Darwinは、アダプティブエンタープライズの実現に向けたわれわれの体系的なアプローチだ」とダニエルズ氏。「われわれはこうした包括的なアプローチを取らなければ、顧客の改革の成果はぱっとしないものになってしまうと考えている」

 Darwinは具体的な青写真というよりも、モジュールで構成される体系の構築を目指すものであるため、HPにとってその戦略が製品やサービスに与える影響は見極めにくい。だがForresterのジレット氏は、Darwinがあいまいだからといって効果がないと誤解してはならないと語る。

 「これは概念的なものだ。HPの広告に簡単に載せられるようなたぐいのものではないが、彼らのアダプティブエンタープライズ戦略の要となっている」とエンタープライズITインフラを専門とするジレット氏は語る。

       1|2 次のページへ

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ