サービスレベル管理におけるペナルティとインセンティブは、そもそもの目的が違うことからも、管理スパンや精算方法も異なっている。ペナルティはサービスレベル未達成を抑制するための罰則であり、インセンティブはサービスレベルを連続達成させるためのモチベーションツールである。
仮にサービスAのペナルティと、サービスBのインセンティブが相殺されてしまったとしたらどうなるであろうか。サービスAの改善に対するモチベーションが低下するだけに留まらず、サービスBのさらなる改善に向けてのモチベーションも低下してしまうだろう。このように、ペナルティとインセンティブは違う制度として組み込むことが不可欠である。両者を相殺させるような仕組みは、それぞれの制度を骨抜きにしかねないので注意が必要だ。
なお、サービスレベル管理におけるインセンティブとは、バリューシェアリングとは異なるものであり、ペナルティも損害賠償とは異なるものであることに、注意願いたい。
サービスレベル値は、サービス料金との費用対効果の中で決定されるべきものであることからも、サービス料金とサービスレベル値との関係性を明確にすることは重要である。サービスレベル値には、24時間365日のサービス提供といった“サービスの仕様”に関わる値と、同サービス時間帯における稼働率99.9%といった“サービスの品質”に関する値との2つがある。
実は後者の“サービスの品質”に連動したサービス料金を設定するのは難しい。例えば、ITサービスの稼働率が、99.5%と99.9%では、システムの構成や保守契約は同様にしなければならないであろうから、サービス料金に差をつけることができない。また、一旦導入したITサービスを、後から「サービスレベル値を落としても構わないからサービス料金を安くしてくれ」と要望されても、既に導入してしまったハードウェアなどの資産が足枷となり、そう単純には対応できないのが事情である。
サービスレベル値とサービス料金とをひも付けている企業でも、サービス原価との関係性が把握しやすい“サービスの仕様”にひも付けているケースがほとんどである。“サービスの品質”とリニアに連動するサービス料金を設定している企業は、その難しさからもほとんどないのが現状だろう。ただし、“サービスの品質”に対するユーザー部門からの要求は、ビジネス環境の変化に応じて上がったり下がったりするものである。このことからも、資産保有形態の見直しも含め、可能な限りサービスレベル値に応じた柔軟なサービス料金を設定できるよう努力することが求められる。
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