地球の“わななき”を感じる「地球シミュレータ」――3次元プレート境界モデルからの地震予測コンテンツ時代の未来予想図(2/2 ページ)

» 2005年11月24日 17時39分 公開
[中村文雄,ITmedia]
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解析データは十勝沖地震の可能性を示唆していた

 松浦教授らは、1996年から2000年のGPS測位データからプレート境界におけるゆがみエネルギーの蓄積量をデータ解析した。GPS測位データから5年間に移動したプレートの移動距離を割り出し、3次元プレート境界モデルから算出されるプレートの移動距離と比較したのである。実際に移動した距離が、3次元プレート境界モデルのデータと同じであれば問題ないが、もし、実際の移動距離が3次元プレート境界モデルのデータよりも短ければ、そこにゆがみエネルギーが蓄積していると考えられる。

赤い矢印がGPS測位データから算出した5年間の移動距離。ユーラシアプレートを基準とした日本列島の動きが分かる

 データ解析を進めた結果が下図である。青い部分が「すべり遅れ」で、十勝沖、宮城県沖、関東、南海の地域では、3次元プレート境界モデルで算出したデータよりも滑り方が短い。これらの境界ではゆがみエネルギーの蓄積があり、地震発生の可能性が高いと予想できる。実際に、このデータ解析の後、2003年9月にマグニチュード8の十勝沖地震が発生しており、釧路沖と宮城県沖においても地震が発生している。このことは3次元プレート境界モデルが、地震予測に適用できる可能性が高いことを示すものだ。

5年間のGSP測位データと3次元プレート境界モデルの比較結果。十勝沖などに大きなゆがみエネルギーが蓄積されている(画面の一部を編集しています)

 松浦教授は、3次元プレート境界モデルについて次のように説明する。

 「プレートの境界面の形と摩擦特性が全部分かれば、プレート移動が起因となる地震を予測できる。そのためには3次元プレート境界モデルを精度の高いものにする必要があるが、満足できるモデルとするには、北海道から東北地方にかけては5年程度、日本全体となると10年くらい必要。特に関東周辺は4枚のプレートが重なっており、解析が非常に難しい」(松浦教授)

 このようなデータ解析を地球シミュレータでリアルタイムに行うのが、冒頭に紹介したプロジェクトである。データ解析には膨大な数の逆行列の計算が必要となり、日本全国を対象とする際には、地球シミュレータの計算能力が必要になる。プロジェクトはGPS測位データを持つ国土地理院と共同で行われており、最新のGPS測位データと3次元プレート境界モデルから現在のプレート境界の状態を知ることで、地震予測へとつなげていく予定だ。

 上記のデータ解析に加えて、地震が発生する“きっかけ”を与えるシミュレーションの計画もある。小さな力を加えることで大きな地震が引き起こされるかを、3次元プレート境界モデルを使って算出する。実際にシミュレーションした結果、小さな力を与えても断層が少し滑るだけで終わってしまうケースや、そのまま大きな地震につながるケースなど、地震予測に役立つことが分かっている。今後、実際の地震データとの比較などで精度を高めていく予定だ。

東京大学大学院理学系研究科の松浦充宏教授。地震発生物理学の専門家として地球シミュレータのソフトウェア開発にも携わる

 東海地震においては、プレスリップ(前兆すべり)という大地震の前に起きる前兆現象をとらえるために、24時間体制の観測網が整備されている。もし、プレスリップが起きれば、相当高い確率で、しかも、数時間前から数日前というレベルで地震発生予測が可能とされている。将来的には、松浦教授の3次元プレート境界モデルによる地震予測システムとプレスリップの観測網を組み合わせることで、さらに精度の高い地震予測体制が敷かれることを期待したい。

 地球シミュレータにリアルタイムでGPS測位データが入力されれば、地下にある4枚のプレートの状態が、地球シミュレータ内部にバーチャルな形で存在することになる。同じように気象、海洋、宇宙に関するデータもセンサーからリアルタイムに地球シミュレータへ入力すれば、“バーチャル地球”が地球シミュレータ内部に存在することになる。それが可能になれば、アジアに多大な被害をもたらした「スマトラ沖地震・津波」や米国のニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」などのような天災の規模をいち早く予測して、世界に警告を発することができるだろう。

資料提供:東京大学大学院理学系研究科 松浦充宏教授

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