無視できないSalesforce.comの勢い――MSのCRM製品は勝負に出るか?(2/3 ページ)

» 2006年02月28日 07時00分 公開
[Chris Alliegro,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

リポートサービスの統合
 Dynamics CRMの従来のバージョンは、Business ObjectsのリポートエンジンであるCrystal Reportsとともに出荷されていた。Dynamics CRM 3.0ではCrystal Reportsは採用されておらず、代わりにリポートの作成、発行、表示が可能なSQL Server Reporting Servicesエンジンが統合されている(Dynamics CRM 3.0では、Reporting Servicesの独立したスタンドアロンインスタンスを利用することもできる)。また、OutlookまたはWebクライアントで表示できる約20種類の定義済みのリポートも用意されている。Reporting Servicesでリポートを新規作成するには、Reporting ServicesのReport Designer(Dynamics CRMに含まれているVisual Studioベースの設計ツール)をインストールして使用する必要がある。Reporting Servicesの統合により、Dynamics CRMはMicrosoftのリポート機能戦略に沿った機能構成となった。また、顧客はCrystal Reportsよりも高度な機能を利用できるようになった。例えば、Reporting Servicesは、電子メールでリポートを配布でき、リポートをAdobeのPDF(Portable Document Format)にエクスポートする機能も提供する。

ホスティングプロバイダー向けの新ライセンスを導入

 Dynamics CRM 3.0では機能が強化されているだけでなく、ホスティングソリューションの普及促進を狙ったサブスクリプションベースのライセンスプログラムも導入されている(現在、Navisite、CRM OnTarget、ActiveISなど、Microsoftのパートナー数社がDynamics CRMベースのホスティングソリューションを提供している)。このプログラムでは、Dynamics CRMベースのホスティングサービスを提供するパートナーは、Dynamics CRMを前払いで購入する必要がなく、その代わりにMicrosoftは、こうしたサービスプロバイダーが顧客に継続的に課金する料金の一部を受け取る。この新しいライセンスモデルにより、こうしたホスティングサービスの初期コストが低減されることになる。このライセンスモデルは、競合するSalesforce.comのCRMホスティングソリューションに自社のCRM製品が押されているのではないかというMicrosoftの懸念を反映している。

 ライセンスモデルの変更によってサービスプロバイダーの初期コストは減少するかもしれないが、Dynamics CRMの最新バージョンでは、サービスプロバイダーが経常的コストの面でSalesforce.comより優位に立つことを困難にしていると考えられるかねてからの制約は、解消されていない。具体的には、サービスプロバイダーはDynamics CRMの複数のインスタンスを1台のサーバ上で動作させることができない。となると、CRMホスティングサービスの顧客ごとに専用のサーバハードウェアを用意する必要があることになる。こうした運用形態では一般に、1台のハードウェアで複数の顧客をカバーする場合よりも運用コストが高くなる。この制約が、Dynamics CRMベースのホスティングサービスの料金がSalesforce.comのサービスに比べて高い一因と見られる。例えば、2006年1月時点でNavisiteのCRMOnlineの月額料金はユーザー当たり99ドルからだが、Salesforce.comの場合はユーザー当たり65ドルからとなっている。

 また、Dynamics CRMを採用するサービスプロバイダーは、いずれはMicrosoftとの競合に直面するかもしれない。Microsoftが2005年9月にワシントン州レドモンドで開催したBusiness Summitカンファレンスで、CEOのSteve Ballmer氏は、MicrosoftがSalesforce.comに対抗するCRMホスティングソリューションを提供する可能性を表明した。同氏は、一部の顧客が「CRMホスティングソリューションを求めて」おり、Microsoftが「将来的にはオンサイト型とホスティング型の両方のソリューションを用意し」、Salesforce.comに挑む考えであることを認めた。しかし、その後Dynamics CRM担当ゼネラルマネジャーのBrad Wilson氏は、MicrosoftはCRMホスティングサービスを自社で提供するのではなく、ホスティングパートナーをより効果的にサポートできるように(1台のサーバ上でDynamics CRMの複数インスタンスを動作させる機能などを将来のバージョンに追加することで、)自社のCRM製品を強化することに専念すると示唆した。

 MicrosoftがDynamics CRMベースのCRMホスティングサービスを自前で提供する計画なのかどうかはさておき、Ballmer氏の発言は、MicrosoftがCRMホスティングとSalesforce.comについて、無視するわけにはいかないビジネスモデル、そしてライバル企業だという認識を持っていることを浮き彫りにしている。Salesforce.comが今後も積極的な攻勢で顧客を増やし続けた場合や、Navisiteなどのパートナーが失速してしまった場合には、MicrosoftはCRMホスティングサービスへの参入に踏み切るかもしれない。Microsoftはその場合には、現在準備中の小規模企業向けオンラインサービスパッケージ「Office Live」の一部としてCRMホスティングサービスを提供するだろう。Office Liveは2005年11月にチーフソフトウェアアーキテクトのBill Gates氏と最高技術責任者のRay Ozzie氏によって発表された。

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