MSRIで特筆すべきは、このインド研究所の副所長にあたるアシスタント・マネージング・ディレクターのポジションに日本人が着任していることだろう。その日本人の名は外山健太郎氏。レドモンドで勤務しているころ、現在インド研究所の所長であるアナンダン氏が直接の上司だったこともあり、誘われる形でインド研究所へと移ったという。
現在36歳の同氏は、「はじめてコンピュータに触れたのは10歳のころでしょうか。ボードコンピュータに触れ、そのころBASICで簡単なゲームを作った覚えがあります」と昔を振り返る。その後、物理学にも興味を持ったが、現在はコンピュータサイエンスを専門とする生粋の技術者だ。最近ではガーナの大学で教授として数学の講義を行っていたという。
折しも開催中の学生向け技術コンテスト「Imagine Cup」。最先端で活躍する技術者として、将来を担う者へプログラミング上達の秘訣をと聞くと、「さまざまな要素はあるでしょうが、まずは数をこなすことではないだろうか。プログラミングは楽器と同じです。また、重要な要素として、ほかの研究者や彼らが生み出すものに触れる機会を増やすことが挙げられるかと思う。自分だけの殻に閉じこもってしまうと、有益であるはずの意見まで届かなくなってしまうので」とアドバイスしてくれた。
MSRIのような研究機関の存在意義として、Microsoftにとって有益な研究を、という短期的な視野でとらえてはならないと外山氏。結局のところ、社会にどれだけ役立てるかこそが、研究機関の役割なのだと話す。
最近ではBRICsという言葉に代表されるように、インドが高度成長中の国であることは間違いない。しかし、10億人以上の人口の大半はITと無縁な農村地域で生活していることも珍しくない。また、インフラ面での整備も遅れているほか、裕福な人とそうでない人の差も激しいなどインドには基盤となる部分での課題も多い。
ITとは無縁、もしくはその恩恵を十分に受けることができない人々に、コンピュータ、ひいては科学技術をどう有益なものにしていくかを考えるにあたって、インドという地域はアドバンテージがあるという。上述したマルチマウスなどは、インド研究所で生まれるべくして生まれたものではないだろうか。
一方、現在ではGoogle Labsに代表されるように比較的未完成なサービスをいち早く世に示し、ユーザーからのフィードバックを最大限に利用しようとする動きもある。Googleのこうした動きについて、「気にしていないかと言えばやはり気にはなる。しかし、研究所というのは大学の研究室と近しいものではないかと思うので、若干スタンスが違うと思う。MicrosoftでGoogle Labsに相当するものは、MSNが提供していこうとしている。また、上述のマルチマウスなど、ハードウェアも組み合わせた研究が行われるのが差異として挙げられるのではないか」と答えた。
今後、自身はどのようなことを成し遂げたいかという問いに対し、「教育」というキーワードを挙げる。しかし、「テクノロジーカットだけで考えてしまっては、本当に使う人のことを考えているとは言えない。例えば、貧しい人たちにPCをただ配布したところで、それでこれらの問題が解決するわけではない」と付け加え、MSRIでも取り入れている人類学者、政治/経済学者など、ほかの専門家の意見も積極的に取り入れて従来とは違ったことを行うことでイノベーションを起こしていきたいと述べた。
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