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» 2006年09月12日 08時20分 公開

ソフトウェアファクトリー ルポ:地方都市とソフトウェア開発――変革するアプリケーション開発〜「ソフトウェアファクトリー」という考え方

地方都市産業のITによる活性化は、官民双方の力がなければ成功へと導くことはできない。さらに、IT化された競争力のある地方都市を生み出すためには、従来からの古い開発手法と下請け的役割りを断ち切る必要がある。そのために開発者たちは何をすればよいのだろうか。

[柿沼雄一郎,ITmedia]

 地方都市産業のITによる活性化は、官民の双方が手を結び同時に推し進めなければ成功へと導くことはできない。内閣府参事官 経済産業担当の花木 出氏は政府による沖縄振興策を打ち出す一方、民間の力によるさまざまな活動も重要だと指摘する。

 こうした活動の一環として8月21日、沖縄で開催された技術セミナー「沖縄ソフトウェアファクトリー推進プロジェクト」第一弾では、マイクロソフトによる新たなソフトウェア開発手法となる「Software Factories」や、新時代のユーザーインタフェースを提供する基盤技術「Windows Presentation foundation(WPF)」などが地元の開発者に向けて紹介された。

約50名ほどの開発者、IT技術者たちが参加した「沖縄ソフトウェアファクトリー推進プロジェクト」第一弾 技術セミナー

 効率的なアプリケーション開発のためのフレームワークである「Software Factories」を適用し、WPFなど最新の技術を利用した開発力を備えることが、IT化された競争力のある地方都市を生み出すためには不可欠である。従来からの古い開発手法と下請け的役割りを続けている限り、ITによる産業活性化は見込めない。そのために、マイクロソフトの持てる技術を広く提供し、沖縄のIT振興に役立てたい。セミナーではこうしたメッセージが強く表現され、開発者たちの関心を集めた。

 マイクロソフト エンタープライズ・プラットフォーム本部 業務執行役員 本部長 勝屋信昭氏は、地方都市の支援に関する背景をこう説明する。

マイクロソフト エンタープライズ・プラットフォーム本部 業務執行役員 本部長 勝屋信昭氏

 マイクロソフトはWindows OSといったプラットフォームを提供しているソフトウェア企業だが、同時に技術者を育ててそれを活用してもらうというエコシステムを構築する必要がある。それも「マイクロソフトという一社のためだけでなく、IT全般の知識に長けた技術者が増えていくことこそ、日本のIT業界にとって重要なポイント」だと勝屋氏。

 そこでこれからの国内IT振興を考えたときに望ましいのは、一極集中ではなくさまざまな地域ごとに発展が進み、それら地域間の役割分担による全体活性化が行われることである。このときに役立つのが、マイクロソフトの提唱する「Software Factories(ソフトウェアファクトリー)」という考え方となる。

 Software Factoriesとは、ソフトウェア開発の工業化を目指す開発手法である。最新の技術や手法を取り入れて効率的にソフトウェアを作るというもので、特定の業種や案件に特化してカスタマイズ要件に対応しやすい多品種少量のソフトウェア作りの環境を目指すもの。

デベロッパー&プラットフォーム統括本部 戦略企画担当部長 成本正史氏

 「現在のソフトウェア産業は手工業であり、製造業といった他産業で見られる効率化が進められていない。それはなぜかというと、ハードウェアなどに比べてソフトウェアはカスタマイズの要素があまりにも多すぎるからだ」と成本氏は説明する。ある一つのものを作り出し、それを何百何千と提供するのであれば生産の工業化が可能だが、ソフトウェアの場合はまったく同じものをいくつも提供するということはほぼあり得ない。このため、自動化や効率化が非常に進めにくいという。

 従来のソフトウェア開発は、汎用のプロセスとツール、フレームワークを用いて、その場限りの(再利用できない)アプリケーション構築を行っていた。特定の業種やドメインではなく、あらゆる場面に使えそうなものを作り出していた。また大規模も小規模もすべて同じやり方で開発が行われており、人月工数で計られる見積もり、オーバーヘッドやリソース不足などといった問題から、プロジェクトの進行に支障をきたし、成果物も正当な評価がなされないといったことが多かった。

 こうした問題点を解消するのが、Software Factoriesという考え方だ。ドメイン(領域:業種や、Webアプリケーションといったソフトウェアの形態などを指す)に特化した開発ツールとプロセスを用いて、知識や経験を継承する仕組みを作って作業の自動化や資産の再利用化を進めていくというものである。その中には、ビジネスモデルをGUIから記述するとサービス(コード)をツールが自動生成するモデル駆動とDomain Specific Language、ドメインに必要と思われる製造ラインを作って部品を流し込むというソフトウェアプロダクトラインの概念、ソフトウェアセル生産方式、パターンの形成と適用、プラクティスの導入といったソフトウェア工学のイノベーションが含まれており、これらを統合して適用することで、新しい時代のアプリケーション開発手法を編み出そうというものである。

 成本氏によれば、その結果、ソフトウェアは最小限のカスタマイズで提供可能となり、また開発者は単純作業から解放されてより価値の高い作業に取り組むことができるようになる。さらに再利用が可能となったソフトウェアは、資産としての価値も向上するという。つまり、人とソフトウェアの両方の価値を向上させていこうとすることがSoftware Factoriesの考え方だといえる。

 特に、大規模な案件を1人あるいは小さなまとまりで開発するソフトウェアセル生産方式によって、スキルを持った技術者や地域といった「個」の存在がクローズアップされるようになれば、エンジニアの地位改善や地方都市のIT産業振興に大きく寄与できる。そうなれば、地方といった地理的な問題に左右されることなく、都市部と連携した活動や産業の活性化が可能となる。現在の下請け構造から脱し、日本で一番競争力の高いファクトリーを沖縄で実現することが一つのゴールとして見据えられている。成本氏は、この仕組みを国家全体的なプロジェクトとして各地に適用し、日本の産業構造全体の変革を目指したいと語る。

 「Software Factoriesはもともと70年代に日本で生まれたものであり、海外に持ち出され、再び日本に戻ってきた考え方。日本人が持つ感性や特性にマッチした開発手法の完成形になると信じている」(成本氏)

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