ROIをIT価値の指標とするのは間違い?――オープンソースソフトウェアの場合

元MS社員だったスティーブン・ウォーリー氏は、「オープンソースソフトウェアという視点を持ったとき、IT部門はコスト管理だけに目を向けるのではなく、ビジネスをサポートするという本来の目的に立ち返ることができる」と述べる。

» 2006年10月02日 17時29分 公開
[Peter Galli,eWEEK]
eWEEK

 IT価値の指標としてROI(投資対効果)だけを重視するのは、ITに関する決定を評価するための最善の方法ではないという見方が広がっている――9月28日にアリゾナ州フェニックスで開催されたGartner Open Source Summitにおいて、MicrosoftおよびOptarosの元社員だったスティーブン・ウォーリー氏はこのように語った。

 「Enterprise Open Source: Delivering Value Versus Cutting Costs」(エンタープライズオープンソース:価値の実現vs.コストの削減)と題された講演でウォーリー氏は、「オープンソースソフトウェアという視点からIT戦略をとらえ直すことにより、IT部門はコスト管理だけに目を向けるのではなく、ビジネスをサポートするという本来の目的に立ち返ることができる」と述べた。

 ウォーリー氏はMicrosoftで5年間勤務した。当初は同社のUNIX専門家としての役割を果たし、後にジム・オールチン氏(現在、同社のプラットフォーム/サービス部門の共同社長)から、オープンソースとは何か、そしてそれが同社のビジネスにどのような影響を与えるかについて調査する任務を与えられた。

 「Linuxを叩きのめす任務を与えられたわけではない」と同氏は冗談めかして言った。

 オープンソースが無償だというのは、ただで子犬をもらうのと似ている、とよく言われる。つまり手に入れるのは無料であっても、維持するためのコストが掛かるからだ。しかしウォーリー氏によると、これはオープンソースだけに限ったことではなく、どんなソフトウェアについても当てはまるという。

 また、ライセンス方式にかかわらず、優秀なソフトウェア開発者によってデザインされたものが優れたソフトウェアであり、FOSS(フリー/オープンソースソフトウェア)プロジェクトは、設計者がソフトウェアを作成し、それをFOSSライセンスの下で共有しようとしたときにスタートする、と同氏は話す。

 「FOSSプロジェクトは製品ではない。技術の入れ物なのだ。しかしFOSSプロジェクトの中には、製品化され、ユーザーのためにパッケージング、テスト、文書化、サポート、メンテナンスが行われるものもある」(同氏)

 ウォーリー氏によると、企業は顧客への価値提案の一環として製品を開発するのであり、真に経済的な意味において無償で仕事をしている人はいないという。しかし、オープンソースプロジェクトの開発者や協力者は、与えるものよりも得るもののほうが多く、「影響力を行使したいのであれば、参加し、協力する必要がある」と同氏は指摘する。

 優れたFOSSプロジェクトは、究極的な再利用戦略であり、優れた開発手法とは、希少なリソース、すなわち時間をデザインすることである、と同氏は語る。さらに、カスタムソリューションを迅速に組み立てられることが最大のアドバンテージであるという。

 「オープンソースソフトウェアを利用する喜びは、それが無償であること(ライセンスコストが掛からないため)、そしてコードを変更できることにある。そのおかげで、プロトタイプ作成と開発を無料で行うことができる」ウォーリー氏は話す。

 「もちろん、ある時点で実際にソフトウェアを購入する必要性が生じることもあり、その点はオープンソースソフトウェアも同じである。しかしオープンソースベンダーは、異なるマージンに基づくビジネスで利益を得ている。ユーザーはソフトウェアを“買う”ことはないかもしれないが、製品は購入するのである」(同氏)

 同氏によると、オープンソフトウェアで最も魅力的でかつ競争力に優れた側面は、ユーザーが商用のオープンソース製品を通じて競争力の高いサポートとメンテナンスを購入できることだという。

 ウォーリー氏は、議論を呼んでいるライセンス方式をめぐる問題についても熱弁を振るい、「FOSSのライセンス方式はほかのソフトウェアのライセンス方式と本質的な違いはなく、すべて著作権法に大きく依存している」と指摘した。

 「デュアルライセンシングはIP(知的財産)法の属性である。知的財産を何人にでも、何回でもライセンスすることができるのだ。複数のソフトウェアから成る集合的製品にもライセンスがあるが、これもやはりソフトウェアライセンス方式の1つに過ぎず、この面ではオープンソースに固有の(あるいは特異な)ものはない」とウォーリー氏は語る。

 そしてウォーリー氏は、オープンソースも結局のところ、ソフトウェアであり、経済であり、ビジネスであると述べて、講演を締めくくった。

 「しかしオープンソースの共同開発プロセスは、ユーザーにとってもベンダーにとってもベストな再利用戦略であることが証明されつつある」(同氏)

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