もちろん、一直線にITアーキテクトを目指したいエンジニアもいるだろうが、さまざまな職務を経験し、理解を深めておくことが、その後の仕事に役立つことは言うまでもない。
特に横尾氏は、「運用スペシャリストやシステムアナリストは、とても重要な役割を担っている」とし、システム運用の領域にエンジニアが目を向けてくれることに期待している。
ソフトウェアのライフサイクルを考えたとき、実際は、開発よりも運用の方が長く、それにかかわる人も多い。
「運用は長期にわたり、顧客がメリットを享受するのもこのフェーズだ。運用の中で、見つかった問題やそれに対する改善をIT戦略の立案にフィードバックする役割も担っている」と横尾氏。運用スペシャリストやシステムアナリストは戦略的に重要な職種だと位置付ける。
実は、キャリアパスモデルを検討する上で、ある討議があったと横尾氏は明かす。横尾氏は、ITプロセスの全体像を整理し、それぞれのタスクを中心的に担うのは誰なのかを色分けした「ITプロセスとロールモデル、および職域」(前回の記事で紹介)をまとめているが、ITプロセスがIT戦略の立案から始まり、運用が一番後ろに位置付けられること自体、間違っていると指摘する。
下の図は、一直線ではなく、本来は改善が続けられるべきITプロセスのライフサイクルを表現したもので、さらにそれぞれのタスクを中心的に担うのは誰なのかという色分けを反映させたものだ。
ITシステム化構想の段階は、システムアナリストとITアーキテクトが参画し、前者はビジネス面から、後者はIT面から構想を支援するのだが、運用スペシャリストからのフィードバックが反映される姿が理想だ。
「これまで下流とされてきた運用保守のフェーズが実は“超”上流なのだ」と横尾氏。
また、日本のソフトウェア産業を見回したとき、欧米のそれと大きくかけ離れているのが、アナリストの存在だ。
「日本の場合、ビジネス面からシステム構想を支援していくシステムアナリストの担い手が極端に少なく、弱点となってしまっている」(横尾氏)
ビジネスの現状をダイヤグラムで可視化しようとする作業は膨大な時間と手間を要するだろう。現業を担当しているユーザーにそんな時間はない。しかし、だからといってIT部門のエンジニアがこれを肩代わりできるかというとそうでもない。ビジネスを理解することは難しいからだ。
「システムアナリストの領域が、すっぽりと抜け落ちてしまっている。運用と開発を経験し、自社の企業活動についても理解を深めていけば、アナリストとして活躍できる」と横尾氏は期待する。
マイクロソフトの成本氏も、システムアナリストはITエンジニアが目指すにふさわしいキャリアパスだと指摘する。
「要件定義の段階で、あまりの負荷にユーザーらがギブアップしてしまうケースが多いが、あきらめないでほしい。ITアーキテクトのビジネス版、ともいえるシステムアナリストへのニーズは今後高まるはずだ」と成本氏。
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