とはいえ、冒頭で述べたように最近では企業ユーザーやトップ層などが無線の便利さを分かっている。このためか、いささか安易に無線LANを検討する事例が見受けられる。例えば「オフィスの移転を機に有線LANは導入せず、完全ワイヤレスのオフィスを実現しよう」という掛け声をしばしば耳にする。
だが、無線LANには無線LANの特性がある。それらを把握した上で導入するのが快適な利用環境実現のカギだ。図3は、有線LANと比較した場合の無線LANの特徴だ。ここで見落としてはいけないのは、有線LANと違って帯域を随意に増やせないことや、近隣のオフィスと周波数を共有していることである。
つまり無線LANは、多数の端末がリアルタイムに大容量通信を行うようなケースには向かない。端的な例としては、教育現場におけるマルチメディア授業などだ。こうした用途にはワイヤード、すなわち有線LANを整備した方がいい。
また電波を使っている以上、強力な妨害電波を照射されると通信が困難になることも忘れてはならない。そのような電波を送出することは法的には違法だが、技術的にはさほど困難ではない。そう考えると、接続障害や通信不能が許されないような基幹システムに接続する端末では、無線LANの使用は避けた方がいいだろう。
さらに通常のオフィスで使う場合でも、有線LANのポートを一定数確保するなどの代替策を用意しておくことが適切な設計だといえる。安全で快適なワイヤレスオフィスを実現する上で、いささか皮肉めいているが「完全ワイヤレス化」は決してお勧めできないソリューションなのだ。
配線、電源、そしてセキュリティと、あなたのオフィスに快適なワイヤレス環境を実現する上で常にカギを握るもの。それがワイヤードの確保なのである。
NTTコミュニケーションズ システムエンジニアリング部 主査。企業向け無線LANの設計に従事。無線LAN対応携帯電話の登場でモバイルセントレックスの案件が相次ぎ、安定した音質確保のための設計技法確立を思案する日々。
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