ここまで説明してきた3点を確実にクリアすれば、通話品質の8割は確保できるだろう。そして残る2割のうちの1つが、各種タイマーの調整である。タイマーの調整は、呼の制御を行うSIP(Session Initiation Protocol)サーバ、あるいはUA(User Agent:IP電話やPCのソフトフォン、IMなどを指す)に対して行う。
その中で、意外に重要となるタイマーが「定期REGIST間隔」と「セッションタイマー」である。
REGISTとは、端末(番号)自らのIPをSIPサーバに登録しにいくことで、SIP対応電話機ならではの動作だ。これには有効期限があり、この期限を迎える前に延長する処理を行っておかないと、「電話の電源が入っていないため、かかりません」ということになってしまう。通常、この延長を行う処理は、有効期限の半分の時間ごとに実施されるように設定されている。また、一般に有効期限のデフォルト値は3600秒に設定されているものが多い。したがって、延長処理は3600秒(60分)の半分の30分間隔となる。オフィスでの通話時間が平均3分程度であることを考えれば、通話中に定期REGIST処理を迎えるケースは、3600秒のままであればほとんどない。
しかし、圏外の識別精度を上げる目的で、有効期限を短かく設定することがある。つまり、通話途中で定期REGISTの延長処理が発生する確率も上がるので、この呼処理自体が端末内の音声処理と重なって過負荷となり、ノイズの発生源(音声処理の妨げ)になる場合がある。実際はほんの1秒程度のものでしかないのだが、人よってはきわめて耳障りに感じることもある。
音声の処理は端末に採用されるチップの能力に依存する度合いが大きいため、このケースにおけるノイズの発生そのものを抑えることは難しい。したがって、不用意にREGIST間隔を短かくすべきではない。
一方のセッションタイマーは、ネットワーク障害などの理由からどちらか一方の電話機が正常な呼処理を経ずに切断されてしまった場合、もう一方の電話機側の呼を終わらせるために用いるものだ(図3)。
この図での流れを説明すると、次のようになる。
問題は、これが再接続処理であるということである。再接続処理も電話端末側の実装上の仕様に大きく依存する場合がある。端末の仕様によってF01やF03を受けた時点でRTP(Real-time Transport Protocol)の送信を中止したり、RTPポートの再オープン処理が発生して、ノイズになってしまうのだ。
したがって、導入前の事前検証においては、端末自体が苦手とするタイマー処理についてもその仕様を十分に確認し、その上で適切なタイマー設定を行っていただきたい。
日立コミュニケーションテクノロジー IPネットワークセンタ 開発部 SIP:OFFICEグループ技師。1986年、日立インフォメーションテクノロジーに入社。以来9年間データベース関連製品のプログラマーを経験し、1995年からネットワークSEとして多数の大規模ネットワークの構築も経験。さらに2003年から自社VoIP製品である「SIP:OFFICE」の開発に従事。2006年10月より事業統合により同社に転属。難解な技術を平易な言葉で表現することには定評がある。燃料は酒。これがないと走らない。
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