走ってはビルドの繰り返し――猛ダッシュで駆け抜けたケンウッドのカーナビ開発夢工房を追う 第3回(2/3 ページ)

» 2006年11月30日 07時00分 公開
[三浦優子,ITmedia]

 市場の成長率で比較しても、カーオーディオ市場が減少傾向であるのに比べ、カーナビ市場はまだまだ増加傾向が続く。こうした状況から考えても、カーオーディオを販売するケンウッドが、カーナビを独自開発する選択を行ったのは自然な流れでもあった。

 「現在のカーナビの差別化のポイントはソフトにあります。ハードウェアを比較しても各社の違いを見出すのは難しいでしょう。しかし、ソフトにはまだまだ差別化できるポイントがたくさんあります。そしてそのためには自由度の高い、独自開発であることが必要でした」(馬場氏)

馬場鉄弥氏 ケンウッド カーマルチメディア事業部CMS企画技術部主査の馬場鉄弥氏

 とはいえ、限られた時間内に最適なソフトウェア開発を実現するためには、最適なプラットフォームを選ぶ必要があった。

 「ITRON、Linux、Windows Automotive……組み込み用OSとしてスタンダードなものはすべて検証しました。その結果、デバイスドライバの数、サポート体制が最も整っていたのがWindows Automotiveでした」(浜中氏)

 デバイスドライバが潤沢であるか、否かは、製品開発のスピードという点において重要な要素であった。が、それとともに、「将来性」という点から考えることも必要だった。

 「例えば、Bluetooth用のドライバが用意されているのか、それとも新たに開発しなければならないのか、それによって開発のスピードに大きな違いが出てきます。Windows Automotiveには基本的に必要なドライバが数多く用意されていました。基本が整っているので、我々のデバイス用に書き換えを行うだけで済む。これは大変有り難いことでした。しかも、いろいろなデバイスドライバが用意されているということは、将来、新しいデバイスが登場した際にもサポートが行われる可能性が高い。マルチメディアシステムとしての将来性という点でも、Windows Automotiveが最も将来性が高いと判断しました」(浜中氏)

 また、ケンウッドと調布にあるマイクロソフト調布技術センターは、ケンウッドが独自カーナビ開発を開始する前から協力関係をもち、Windows Automotiveに関する研究を行った経緯があった。

 「2001年頃、カーナビゲーションシステムの試作をしたことがあります。ただ、当時はマイコンのパワーが十分ではなく、我々が思うようなものを実現するのが難しかった。それから時間が経って、マイコンのパワーが上がり、Windows Automotiveのバージョンアップが行われたことで、実際の製品作りにこぎ着けたのだと思っています」と浜中氏は振り返る。

走りながらバグを捕まえる

 同じ車に搭載するといっても、カーオーディオと比較して、カーナビに必要なプログラムの分量はおおよそ60倍となる。しかも、出来上がったプログラムはテストして試さなければならないが、このテストに苦労が多いのもカーナビならではのことだ。

 「机上テストで明らかになる問題点もあるのですが、車で実走する中で明らかになるプログラムバグだってあります。そうなると、実走テストをして試していくしかないんです」

 馬場氏は笑顔でそう説明してくれたが、実走テストは楽しいだけでは済まない過酷なものである。最終的には専門のドライバに全国を実走してもらうテストも行っているが、初期段階では開発者自身が車を走らせながらテストをすることになる。

 「細かいバグは実際に走ってみないと見つからないことも多いんです。それをデバッグするためには、社に戻って作業をしていては効率が悪い。車にデバッグ環境を積んで、バグを見つける度に車を停めて、バグをつぶしていきました」(馬場氏)

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