日立ソフトウェアエンジニアリング 代表執行役 執行役社長兼取締役 小野功氏――「1対N」型事業モデルを強化技術者不足に対応した収益構造の改善(1/3 ページ)

国内のIT需要増加に伴い、システム開発を行うITサービス会社の業績は好調に推移しているが、一方で競争の激化や技術者不足がますます深刻な問題となっている。そうした中、ITサービス会社として確固たる地歩を築いている日立ソフトウェアエンジニアリング(以下、日立ソフト)が、その対策も含めて新たな戦略展開に力を入れている。同社の小野功社長にそのポイントを聞いた。

» 2007年02月21日 09時00分 公開
[松岡功,アイティセレクト編集部]

 いまシステム開発を行うITサービス会社は、まさに猫の手も借りたいくらい忙しい状況に立たされている。それに伴い、技術者不足が一層深刻な問題となってきている。大手の場合、各社とも技術者の稼働率が90%を超え、受注を抑制せざるをえない状況に立たされているところもあるという。

 システムの開発は、典型的な労働集約型の作業である。したがって、技術者不足は今後の成長の足かせになりかねない。そうした懸念から、大手はこのところ大幅な採用増を打ち出しているが、一応の仕事をこなせる技術者になるのは5〜10年かかるといわれる。それでは追いつかないので、協力会社への発注を増やそうとしても国内では技術者が見つからず、各社は中国などへの委託に一斉に動いた。今ではそうしたオフショア開発(海外への開発委託)においても技術者の奪い合いになっているという。この対策はIT業界全体として早急に手を打たないといけないところにきている。

 ではIT業界のキーパーソンの目には、そうした状況がどのように映っているのか。日立製作所の情報・通信グループの総責任者を務め、昨年6月末に日立ソフトの社長に就任した小野氏に、まずはその見解を聞いた。

日立ソフトウェアエンジニアリング 小野功社長

深刻化する技術者不足

アイティセレクト IT業界は活況を呈していますが、技術者不足も深刻になってきていますね。

小野 確かに今、IT需要は好調に推移しています。とくに金融や製造業のIT投資が旺盛で、この状態は2010年頃まで続くだろうと見ています。ただ、当社でもシステム開発要員が確保し切れず、お客様からいただいた案件に残念ながらお応えできないケースも出てきています。IT業界にとって技術者不足は今まさしく最も深刻な問題となっています。

アイティセレクト 業界の間では今後、技術者の確保を目的としたM&A(合併・買収)やオフショア開発がますます活発化してくるとの見方もありますが……。

小野 お客様が安心してシステム開発を任せることのできるITサービス会社になるためには、どんな規模の案件にも対応できる体制が求められます。それを早急に築くための一つの手段として、M&Aもこれから増えてくるだろうと見ています。

 オフショア開発もますます盛んになっていくでしょうね。当社でも現在、中国に約400人、ベトナムに約100人の技術者を動員できる体制を整えており、今後も強化していく予定です。

 ただ、オフショア開発については、日本企業として二つの点に留意しておくべきだと考えています。一つは委託先の国・地域をできるだけ分散して、環境の変化で起こりうるリスクを回避できるようにしておくこと。これまでオフショア開発というと、日本企業は中国の企業へ委託するケースが大半でしたが、中国は政治体制の変化によって企業の対応も変わる可能性があることを踏まえておかなければなりません。

 また、これまでインドに目が向いていた米国企業が中国にも注力してくる可能性があり、そうなると中国の製造コストが上昇するのは間違いありません。そうした観点から、当社ではベトナムにも早くから進出して体制づくりを行っています。

 最近ではベトナム政府も日本企業の誘致を積極的に行っており、今はまだ数少ないIT企業の進出も今後は増えてくるでしょう。

 もう一つは、オフショア開発によって国内に技術の空洞化を起こさないようにすることです。自分たちがこれまで長年培ってきた技術やノウハウをどこまで開示するのか。そのガイドラインをしっかり決めておいて、最も大事なところは自分たちの手から放さないようにしないといけない。これは一企業にとどまらず、業界、ひいては日本全体の問題だと思います。

アイティセレクト 技術者不足に対処するため、ITサービス会社の自己努力としてはどんな取り組みが必要ですか。

小野 システム開発を中心に行っているところは、どうしてもお客様との「1対1」型事業モデルにならざるをえません。この事業モデルだけでは昨今の技術者不足に対処することもできませんし、収益構造を改善していくこともできません。そこで考えないといけないのは、多数のお客様を対象にした「1対N」型事業モデルをどう構築し、広げていくか。パッケージソフト製品などは1対N型の典型ですが、ITサービス会社としてはそうした製品とサービスを組み合わせた仕組みを1対N型の事業モデルとして確立させていきたいところです。

 ただ、この事業モデルを構築するには相当の知恵が必要なんですよ。

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