第5回 メール文化存続に危機!? 対策に待ったなし!考察! まん延する凶悪スパムの対応策

JEAGの取り組みで迷惑メール対策は進みつつある。ただ、スパムも進化している。その「せめぎ合い」に敗れると、電子メールは使えなくなるかもしれない――という。

» 2007年03月15日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト]

競合の壁を乗り越えて

 迷惑メール対策に取り組むワーキンググループ「JEAG」(Japan Email Anti-Abuse Groupの略。「ジーグ」と読む。3月9日の記事参照)は、国内の主要ISPや携帯電話事業者各社の担当者が手弁当で参加する完全ボランティア組織。そのため、会合を開く場所の確保だけでも大変だという。しかも、普段はユーザー獲得にしのぎを削るライバル関係にある企業同士。当然、各社の技術開発や経営方針などにより、自社の情報を明かせなかったり議論のベクトルが合わなくなるケースも少なくない。

 しかし、スパム撲滅という社会の利益を優先することで、競合という壁を越えてリコメンデーション公開までたどり着いた。そう考えると、担当者たちの努力は賞賛に値するといえるだろう。

 中でも注目されるのは、そのリコメンデーション発表を受け、総務省がOP25B(Outbound Port25 Blocking、3月9日の記事参照)やIP25B(Inbound Port 25 Blocking)、送信ドメイン認証(3月12日の記事参照)などの対策に関して、業務上の正当な行為と認め、ある条件を満たせば通信の秘密に抵触しないという公式見解を示したことだ。

 これについて、JEAGボードメンバーで、KDDIプラットフォーム開発本部FMCプラットフォーム開発部開発第4グループリーダー課長の本間輝彰氏は、次のように語る。

 「(総務省が公式見解としたことは)電子メールの内容をISPが確認することに対する、事実上のお墨付きといえる。官民が協力し、迷惑メール対策を推進できる体制が存在する日本は、世界でも特異なケースとして多くの注目を集めている」

安心してはいられない

 とはいえ、この瞬間もスパムは巧妙に進化し、かつ急増している。「日本のスパム業者と海外のボットネットワーク業者とのコネクションが確立されている可能性は高い。ISPの連携より先に、スパム業界の方がいち早くグローバル連携している」と、本間氏は指摘する。

 同じくJEAGのボードメンバーである、インターネットイニシアティブの技術開発本部シニアプログラムマネージャ、櫻庭秀次氏も、「スパマーはボットを日々改良して進化させており、ISPだけで対処するには限界がある。そのせめぎ合いに遅れをとると、スパムとの戦いに大敗することも考えられる。今後は、専門家に運用を任せるなどの施策をとらないと、ますます巧妙化するスパムに対処できないだろう」と危機感を募らせる。「このままでは電子メールが使えなくなる」と懸念する櫻庭氏たちは、そのような事態に陥らないよう、今後も「メール文化の生存」を使命に活動していくという。

 今や人類共通の資源となったメール環境において、これ以上スパムの汚染を広げないように押さえ込むべきか。はたまた、スパムの拡大は必然ととらえ、メールを捨てて新たなコミュニケーション手段を見出すべきか。これが今、人類に突きつけられた「待ったなしの選択肢」となっているのかもしれない(「月刊アイティセレクト」3月号のトレンドフォーカス「まん延する凶悪スパム メール文化に 危急存亡の秋!? 急を要する本格対策」を再編集した)。

OP25Bが、ISPが提供する動的IPアドレスからインターネットへ送信されようとする迷惑メールを、メールサーバーのメール送信ポートである「25番ポート」をブロックすることにより送れないようにするのと逆で、インターネット上の動的IPアドレスからメールサーバーに送られてくる迷惑メールを、「25番」をブロックして受け取らないようにすること。
[本文に戻る]

Copyright© 2011 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ