「明日から君が社長だ」――デスクにあった一枚のメモ「見える化」のためのITC活用(2/2 ページ)

» 2007年04月09日 07時00分 公開
[大西高弘,アイティセレクト編集部]
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ITCとの出会い

 業務を変えていくには、システムの改革も重要なテーマだ。生産管理の質を上げ、属人的だった業務をシステムで見える化し、作業効率を上げていく必要があった。

 斎藤氏は80年代に販売・仕入れ管理のシステムを自分で作り上げた。そんな背景もあって当初は新システムも自分で構築しようと考えたという。

 「想定したシステムは、見積りから生産現場の情報、そして財務関連や原料を含めた在庫情報を管理し、協力会社、得意先とネットワークにもつながるというもの。素材原価の低減と在庫の圧縮を実現して、キャッシュフローを改善するのが最終目的でした。誰にでも全体が見えることを目指した欲張ったシステムだったので、何とかなるんじゃないか、と最初は思っていたんですが、結局自前ではとても無理だということになった」(斎藤氏)

 そして99年、生産管理のパッケージを組み合わせたシステムのプランを作り、IT活用型経営革新モデル事業に応募しようと事前相談に行く。モデル事業に採択されれば、導入費用を軽減することができるからだ。しかし、作成したプランでは無理だということになった。

 「この程度ではとてもモデル事業にはならない、といわれました。システムありきの発想で作った『絵に描いた餅』だったんですね」と斎藤氏は当時を振り返る。相談窓口での勧めもあり、斎藤氏はITSSP事業の研修会に参加した。そんな中、2001年にITコーディネータ協会多摩協議会会長のITC、田中渉氏と出会い、経営のSWOT分析からプラン作りを開始し、新システムを構築するに至る。曖昧さをなくし、経営効率を上げようというこのプロジェクトは、04年に経済産業省から「IT活用型経営革新モデル事業」に採択され、約3000万円の導入コストの半額の補助を受けた。

 ITC田中氏の協力を受けながら、構築した生産管理システムは、数種類のパッケージソフトを活用して構築。不良品の発生をシステム導入前に比べて20%以上抑える効果を出している。原材料となる貴金属価格の高騰が続く中、同社は順調に業績を伸ばしており、無借金経営を続けている。

ITコーディネータ協会多摩協議会会長 田中渉氏

「システムありき」の発想からの脱出

 斎藤氏は新しいシステムについて次のように語る。

 「当初はシステムありきの発想がなかなか抜け出せなかった。自前で作ったシステムがうまくいったこともあって、新しいパッケージありきで考えてしまっていたんですね」

 現状の業務に合わせてパッケージを導入すれば、効率化が実現するという発想にとらわれていたところを、経営分析の結果からIT導入を策定していくITCの助けを受けて継続的に進化する業務に適合したシステムを構築することができた。

 「行き詰まったとき、われわれでは気づかない意見をいただける。これからも経営課題に関わるコンサルティングをお願いしていきたい」と斎藤氏は話す。

 ITCの田中氏は次のような指摘をする。

 「コンサルティングにかかる費用も確かに馬鹿にならないでしょうが、斎藤さんは社員への教育費だと考えている。システム化は製造工程の進捗だけでなく、見積書の作成支援から売り上げ、利益管理にまでわたりました。加工の途中で出てくる余り部分を再利用することを見越した材料発注のシステムなどは、ITCの中からかつて鉄鋼メーカーに勤めていた人を探して出して支援してもらいました。社長の目標がはっきりと見えていると、こちらも何とかして実現したいと知恵を絞ります」

 生産現場で出てくる余った原材料をもう一度溶解させ再利用、無駄のない製品作りをするわけだが、必要な部品に必要な材料になるように配合するには手間も時間もかかっていた。これを瞬時に計算できるシステムを同社では生産管理システムのサブシステムの中に組み上げた。

 「大手の鉄鋼メーカーでは常識となっているシステムらしいのですが、当社でも福島県にある工場も含めた全在庫データを管理しています。購入原料を最小化してキャッシュフローを改善する手立てとして非常に効果が大きいです。このシステムもITCのネットワークがなければ実現できなかったと思います」と斎藤氏は語る。

 プロダクトアウトからマーケットインの時代に入った今、二代目社長はネットワークという武器を使って、企業の進化のスピードを飛躍的に向上させた。

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