第1回 ひたむきな開業医の挑戦がケータイにやってきたケータイカルテで病診連携実現を目指す

かかりつけ医と総合病院の専門医が機能分担することにより、効率的かつ効果的な医療を実現する病診連携実現のため、電子カルテのさらなる普及が待たれている。そこに、携帯電話での取り組みが始まっている。

» 2007年04月27日 07時30分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト]

口コミで広がる「開業医産カルテ」

 医療の現場で電子カルテシステムの普及が進みつつある。電子カルテとは、紙の診療録などに記録された診療情報(診療の過程で得られた患者の病状や治療経過などの情報)を電子化した診療録のこと、また電子カルテシステムは、それを運用するための医療情報システムを指す。

 厚生労働省が発表した、2005年度の「医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」(同年10月調査)によると、電子カルテシステムを導入する病院は470施設(病院総数の5.2%)、一般診療所では6169施設(一般診療所総数の6.3%)となっている。2002年に実施された前回調査では、病院で109施設(同1.2%)、一般診療所で2417施設(同2.6%)であったことから、徐々にではあるが普及しつつあることが分かる。

 導入する目的は、患者の情報を一元・統合管理し、患者の立場に立った医療を実現すること。医療情報を統計分析し、医療の質的向上や診療経営に貢献するためでもある。

 システムは大手ベンダーが開発したものが主流だが、ユーザーである開業医自身が考案し、医師同士のコミュニティーによって作り上げられた異色のものも存在する。東京・中央区にある吉原内科クリニックの院長、吉原正彦氏が1998年に基本設計した「ダイナミクス」は、その一つだ。使い勝手に賛同した医師らによるネットワーク(現在の「ダイナミクス研究会」)内の相互扶助によって開発が続けられてきた。検索、予約・受付管理、レセプト電算化、院外処方せん・紹介状・主治医意見書発行などにも対応できる。口コミで、利用者(医院)数は既に2000件近くまで広まっている。

ケータイを活用する簡易的で安価な仕組み

 その研究会はこのほど、PC以上に普及している携帯電話に、カルテ情報を格納・参照できるシステムを開発した。医師向けに「merody」、患者向けに「candy」と名付けられたこのシステムでは、ネットワーク利用型ではなく、赤外線を使ってデータを携帯電話のメモリに直接格納する。こうして、セキュリティを保ちつつ、安価に導入・運用できるようにしている。

「candy」で読むデータは赤外線を使って記録する

 merodyは、複数の患者の病歴、治療(投薬)履歴のほか、アレルギー、血液型などを把握するのに用いる。災害などによる停電でダイナミクスが利用できなかったり、診察室を離れているときに緊急の連絡を受けた場合に、非常に有効だという。

 一方、candyは患者自身の健康手帳として、また旅行時の救急診療の際に利用できる。

 candy、merodyともにデータ自体には高度な暗号をかけ、パスワードで呼び出す仕組みとした。携帯電話の遠隔ロックと併用すれば、セキュリティを高められる。

 「患者とともにあり、患者とともに生きる開業医は、寝ても覚めても患者のことが頭から離れない」と語る吉原氏。外出中や休日などの際、患者に万が一の事態が起き、搬送先の病院や警察などから携帯電話に連絡が入ることもあるという。「外出先では、細かい患者のデータや処方した薬などの情報を正確に思い出すことは困難。携帯電話でカルテのエッセンスを確認したいという希望は医師の間でも多かった」とか。

 merody、candyともに、無償でダウンロードできる。吉原氏によると、現在、merodyで400以上、candyで200以上のユーザーがいる。特に、小児科医とその患者を持つ家族に多いようだ。また、訪問看護師・ヘルパーなどにも利用されているという。

 「リアルタイムでもシームレスでもないが、大掛かりなシステムを必要とせずに、病診連携を実現できる。これが患者との信頼関係構築に貢献できれば、診療経営が成り立つだろう」と吉原医師は話す(「月刊アイティセレクト」5月号のトレンドフォーカス「密かに利用が広がるケータイカルテ 病診連携実現で医療界に革命を起こす!?」より。Web掲載にあたり再編集した)。

※ 本文の内容は特に断りのない限り2007年3月現在のもの。

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