日本SGIの「One more thing...」、SaaS事業への参入を宣言

「お金を銀行に預けるように、コンテンツが資産と分かれば、それをどう扱いますか?」――「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」において和泉氏は、この問いに対する日本SGIの答えをSaaS事業への参入という形で示した。

» 2007年06月15日 04時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「お金を銀行に預けるように、コンテンツが資産と分かれば、それをどう扱いますか?」――6月14日、15日にかけて開催中の「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」。その初日のゼネラルセッションで日本SGI代表取締役社長CEOの和泉法夫氏は、1987年に米SGIの日本法人として設立されてまもなく20年がたとうとしている日本SGIがこれまでの取り組みを紹介するとともに、その延長線上にある驚きのプランを発表した。

今回、「覇者の未来」の著者、デビット・モシュラ氏を招こうとしたが、スケジュールの関係で実現できなかったと残念がる日本SGI代表取締役社長CEOの和泉法夫氏。モシュラはこなかったが、彼が予言した未来は到来した

 冒頭、ここ1年ほどに同社が行った業務・資本提携、M&Aなどを示した和泉氏。その中でも、2007年1月にiDC事業者であるメディアエクスチェンジ(MEX)と業務・資本提携したこと(関連記事)を特に強調する。

 MEXについて「Tier1というインターネットの中心にあるキャリアフリーなiDC」と話す和泉氏、MEXの筆頭株主でもある日本SGIは次の株主総会で、代表取締役社長と副社長を出す予定であることを明かし、より密な連携を図っていくとした。

 続いて、「もはやわたしの話を聞いている方にとっては耳にたこだろうが」と前置きした上で、デビット・モシュラ氏の著書「覇者の未来」でモシュラ氏が示した内容、つまり、システムの時代から、PCの時代、そしてネットワークの時代を経て、コンテンツの時代」へと発展しようとしているIT業界の流れを示した。

 ネットワーク基盤が十分に整った現在、Googleのような大量のトラフィックを受ける企業が巨大なデータセンターを有していることや、シンクライアントの台頭などを例に挙げ、分散と集中のうち、集中の時代に再び回帰しつつあることを述べた同氏。かつて登場して華々しく散っていったIT用語が再び息を吹き返していると話す。

 「過去に登場して死にかかった言葉は10年ほどするとよみがえる。話題のSecond Lifeにしても、10年前にはVRML(Virtual Reality Modeling Language)を利用した3D空間での試みがいろいろと存在した。Second Lifeが普及したのはインフラとなるネットワークが育った時代だから。すべての物事は過去を振り返れば何らかの形で存在しているもの」

 ユーティリティコンピューティングもまさにこれに当てはまると和泉氏。ユーティリティコンピューティング時代のIT社会サービスのインフラを構成するものとして、コンテンツ力、ネットワーク、ユーザーインタフェースの3つを挙げる。コンテンツ力については、SiliconLIVE!によってカバーし、ネットワークの部分はMEXとともに作り上げ、ユーザーインタフェースはSTSegweyに代表されるように、必ずしもキーボードやマウスに隷属しないユーザーフレンドリーなものを提供することで、「Web 2.0の次の世界」を切り開こうとしている姿勢を示した。

和泉氏の「One more thing...」

 そしてその瞬間がやってきた。講演も終わりに近づいたころ、スティーブ・ジョブズ氏お得意の「One more thing...」さながらに和泉氏が発した言葉は会場を大いにざわめかせた。

 「日本SGIはSaaSに進出する」

 かつてASP(Application Service Provider)がそれほど普及しなかった一因は、ネットワークコストが高く、またネットワーク品質も不十分であるなど、ネットワーク基盤が十分に整備されていなかったことに負うところが大きい。しかし、時代は変わり、ブロードバンド化が進んだ現在、ASP――現在はSaaSと名を変えた――がごく自然に実現できる基盤が整った。さらに、ネットワークの上流に位置するMEXの筆頭株主として業務・事業提携をしているという事実は、日本SGIがSaaS事業に打って出ることの不自然さを感じさせないが、それでもやはり「まさか日本SGIが」という思いがある。

 具体的な内容と提供方法については、その多くは和泉氏の口から語られなかったが、後に出されたプレスリリースでは、SaaS事業の開始は9月、MEXとの協業による事業展開となる。サービスの種類としては、SSL-VPN、データのオンラインバックアップ、企業・自治体の情報資産アーカイブおよびストリーミング、グループウェア、セキュリティ・コンプライアンス・ソフトウェア、CAEアプリケーションなどを予定し、必要なサービス・モジュール単位で提供するという。併せて、同社はカスタマーサービス部門の拠点を池袋にあるMEX社内に設置し、カスタマーエンジニアが常駐する体制を取るという。

 くしくも今回のイベントの前に和泉氏に行ったインタビューで、その可能性を示唆していた和泉氏。個々のサービスの具体的な内容と提供については、後日発表されるというが、企業の情報資産を包括的に扱えるソリューションを持つ企業は少なく、かつ、SaaSという形態で提供することで、これまで同社が得意としていた大手の顧客だけでなく、中堅・中小企業など広く取り込むことができるため、同社にとって大きな転機となるだろう。

 「お金を銀行に預けるように、コンテンツが資産と分かれば、それをどう扱いますか?」――冒頭に示した和泉氏の問いかけが、次世代iDCビジネスの方向性を示唆しているようだ。

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