OLS 3日目:シンクライアントとOLPC(3/3 ページ)

» 2007年07月10日 13時00分 公開
[David-Graham,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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One Laptop Per Child

 3日目の最後にわたしが出席したセッションは、OLPC(One Laptop Per Child)プロジェクトについてのBoFで、OLPCのボランティアであるアンドリュー・クラリス氏が司会を務めていた。

 クラリス氏は、OLPC創設者のニコラス・ネグロポンテ氏による「OPLCはラップトッププロジェクトではなく教育プロジェクトだ」という言葉を引用してセッションを開始した。そして、健全な社会を育てるためには質の高い教育が重要であり、世界中のすべての子どもたちに低価格のラップトップコンピュータを与えることは、そのための優れた方法の一つだと続けた。

 子どもは、自分でやってみることから学ぶ。子どもは5歳ごろまでは、自分が知りたいと興味を持ったことのみを学ぶが、その後、幼稚園以降は「授業/宿題」の繰り返しという近代的な学習方法が始まるのだという。しかしOLPCプロジェクトは、子どもが自分でやってみたりほかの子どもと協働作業したりすることを通して学ぶことの手助けをするとのことだ。

 OLPCでは、協働作業が最も重要だという。クラリス氏は、ネットワーク接続ができなくなれば、OLPCのノートPCはただの生暖かいブロックになってしまうと表現した。OLPCのノートPCでは、協働作業ということを非常に重視したヒューマンインタフェースになっていて、その中にネットワークが統合されている。

 OLPCのノートPCはファームウェアスタックからアプリケーションまで、すべてがフリーソフトウェアで実現されている。クラリス氏の説明によると、その理由は柔軟性が要求されるためだという。また、OLPCは西洋諸国の消費者向けノートPCには関心がないとのことだ。

 OLPCのノートPCは、できるだけ設備には依存しないようになっている。OLPCのノートPCでは、ネットワーク接続に802.11s(ESSメッシュネットワーク)が使用されている。メッシュネットワークでは、直接的には圏外であるアクセスポイントであっても到達することができるように、各ノートPCがほかのノートPCのためのデータをリレーすることができる。なおアクセスポイント自体については、ほとんどが衛星経由でインターネットに接続されることになる可能性が高いとのことだ。

 OLPCのノートPCの充電機構には、電力を生成できるものであればほぼ何でも使用できるが、プロトタイプで使用されていた取っ手型の発電器は、引っ張ることのできる紐型の発電器に取り替えられたとのことだ。クラリス氏によるとその方が、比較的弱い手首の筋肉ではなく強力な上腕の筋肉を使うことができるからだという。電力はこのような方法でまかなわれるため、電源管理は非常に重要だ。クラリス氏はOLPCのノートPCの電力消費は最近の典型的なノートPCが消費する20ワットから30ワットよりも「一桁少ない」と述べた。

 OLPCのノートPCには、466MHz AMD Geode LX-700プロセッサ、256MバイトのRAM、1Gバイトのフラッシュメモリドライブ(ただしjffs2を使用して圧縮されるので2Gバイト分程度の容量が使用可能)、独自仕様のLCD、高速なNANDアクセス用の「CaFE」ASIC、カメラ、SDメモリーカードスロットが搭載されている。ノートPC本体には、幾つかのUSBポートやプラグ差し込み口があるが、機械的に動作する部分はない。ただし、可動部分はあり、はね上げ式のワイヤレスアンテナと、底を中心に回転するモニタがついている。

 セッションの間、聴衆にはOLPCのノートPCが回覧されたのだが、大きめのお皿ほどのこの小さなマシンに魅了されてしまった人のところで長い間止まってしまうことが頻繁にあった。

 聴衆の一人が、この秋にOLPCのノートPCの最初の出荷が行なわれることに触れた。その際には120万台のOLPCのノートPCがリビアに向けて出荷される予定だという。

 クラリス氏によると、ノートPCの枠は、闇市場や盗難の追跡をしやすくするために色分けされているという。またノートPC自体も比較的盗難の対象になりにくいように設計されていて、各ノートPCの親アクセスポイントの圏外では役に立たず、またマシンを使用するために何らかの形のキーが必要となっているとのことだ。

 セッションでは、OLPCのノートPCが配られるような地域におけるOLPCのノートPCの価値について、冷ややかな見方もかなり多くあった。そのような地域の子どもたちは食べるものにも困っているので、子どもたちの親がOLPCのノートPCを売ることで得られるお金で買える少しばかりの食糧でも、その方がOLPCのノートPCが与える教育よりも価値があって本当にありがたいと思うのではないだろうかというものだ。

 また同様に、犯罪率が高すぎて物を所有することが困難であるような最貧困国の国々の多くの地域において、子どもたちがOPLCのノートPCを盗まれることなく持ち続けることは難しそうだと感じる人もいた。クラリス氏は、このような懸念に対する明確な答えは持ち合わせていなかった。

 OLSの3日目は、会場の2階と3階の間の階段をわたしのノートPCが転げ落ちるというハプニングで幕を閉じた。8年もののDellは、PCとして使うことはもう無理のようで、大きな壊れた紙ばさみとしてしか使い道がなさそうだ。あしたOLS4日目は最終日だ。カーネルのSCSIメンテナであるジェームズ・ボトムレイ氏の講演でカンファレンスが締めくくられる予定だ。

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