これは読者諸兄が、会社組織の中でどういう立場かで考え方は分かれるが、CIOもしくはそれに準じる立場ならば、トップとのコミュニケーションを密に取ることは最低条件だ。無関心なトップに対しても、「あの人はどうせ説明しても分からないから」などとあきらめてはいけない。すべてを理解してもらおうとエネルギーを使う必要はないが、接触だけは常にとっておいた方がいい。無関心な話題でも、接触してくる人間に対しては興味を持つことはよくあることだ。
また、トップはITそのものに対しては無関心だが、周囲の意見を尊重し、情報投資には寛容ということもある。その時は油断は禁物だ。そういうトップは、周囲の意見やIT投資に対する反応を観察して、許容できる範囲を決めているケースが多いからだ。こうしたケースでは、トップに対してだけでなく、周囲の関係者に対する心配りも大切だ。トップとはコミュニケーションは取れているものの、他の関係者の理解が乏しい状態では、進むものも進まない。
「経営陣を巻き込むな。専門家のお前たちは何のために存在しているのか」と怒鳴りつけられても、そのままに解釈して、突っ走っても、いずれ壁に突き当たるのは必定。そんなことはお分かりだろうと思う。ただし、ある程度までは正しいと考える方向へ、突っ走ることも必要かもしれない。それを避けていては、ITによるスピード経営の実現はままならない。もちろん、部下や関連部署とのコミュニケーションを十分に取りながら、である。時にはドン・キホーテ的な存在になることもいとわない気概も必要だろう。
以上を勘案すると、しばしば見かける「もの分かりの悪いトップがどうしても動かないとき」には、次のように割り切った方がIT導入は効率よく、有利に進むのではないか。
(1)トップを当てにせず、CIOや情報システム部門が毅然とした姿勢でリーダーシップを執る。彼らは、「戦略的に取り組むこと」「何をすべきか」など先刻承知だ。
(2)そして、トップは徹底して利用するものと割り切る。例えばトップからIT投資の認可を得るため、その瞬間にすべてを賭けて精力を集中する。時には、トップが興味を持つテーマという土俵で勝負をするくらいの策を弄し、トップを利用すべきだ。
(3)さらにそれ以降は、トップがITに関心を持っているかのように装って社内に徹底するために、関連部門に協力を求める。例えば、経理や企画部門などの事務局を動かし、トップの年頭挨拶・予算方針・経営会議方針などにIT重視の方針を盛り込む。
しかし「IT導入成功条件の重要な1つは、トップの適切な関与である」ことは、今後も機会あるごとに主張する必要はある。なぜなら、主張することが最後の砦になるからだ。
「月刊アイティセレクト」2007年9月号の企業にはびこる『間違いだらけのIT経営』より)
Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.