コモディティ化した2.0の行方エンタープライズ2.0時代の到来

企業におけるWeb2.0はこれまでの情報のあり方を変えてくれる存在なのだろうか。そろそろバズワードとしてではなく、本質へと視点が移ってきている時期だが、Web2.0は何を生み、企業は何を学ぶべきなのだろうか?

» 2007年08月10日 06時00分 公開
[小川 浩,ITmedia]

本記事の関連コンテンツは、オンライン・ムックここまで来た! エンタープライズ2.0のトレンドでご覧になれます。



 当初は単なるバズワードとして片付く気配があった「Web2.0」。しかし、さまざまなメディアでキーワードやキーコンセプトとして話題になり続け、派生的なものを生んだ。IT系の用語として異例なほどの高い認知を得たものだろう。

 その動きもある程度の落ち着きを見せ、2007年に入ってからは企業、それも大企業にまで波及している。企業のWeb2.0化という新たな課題、あるいはそれに対するソリューションの開発へとつながり始めたのだ。これがいわゆる「エンタープライズ2.0」だろう。

エンタープライズ2.0はイントラネット2.0なのか

 エンタープライズ2.0は、その本来の意味からすれば、企業がWeb2.0的な技術や思想を取り入れて変革していくことであり、またはそのためのサービスやソリューションを促進していくことである。しかし、現時点では、むしろ“企業内情報共有のあり方についての2.0化を指している”場合が多い。

 インターネットを「海」に例えると、従来のイントラネットは「湖」であったといえよう。

 オープンな技術によって構成されるインターネットと、比較的クローズな環境であるイントラネットは、海と湖がその規模や水質、生態系までも異なるのと同じように、まったく別物とすべきだった。しかし、この10年でインターネット自体が大きく進化し、その影響を受け始めたイントラネットもまた変わり始めた。グループウェアがWeb型になり、EIP(社内ポータル)も普及し始める。この現象は、海から海水が流れ込み、水質が変わった湖のようなものである。

 淡水に海水が混じった湖を「汽水湖」というが、汽水湖には通常の湖とは違う豊かな生態系を持つものが多い。つまり、始めの社内LANをイントラネット1.0とすれば、汽水湖的にWeb1.0の影響を受けたイントラネットは中間を取った1.5的であるともいえる。

 具体的なサービスでいうと、イントラブログや社内SNSの台頭、エンタープライズサーチの導入の一般化などが具体的な現象である。あるいはグループウェアのユーザーインタフェースにAjaxが採用され始めていることや、社内RSSリーダーなどの製品が発表されていることもそうだろう。要するに、インターネットにはGoogleがあり、ブログがありmixiがあるのと同じことである。

 この現象は今後ますます進み、イントラネットはセキュリティを保ちながらもインターネット上に見られる構成とほとんど変わらなくなるだろう。この状態を筆者は以前は「イントラネット2.0」と呼んでいたが、現在では、これがほぼエンタープライズ2.0の端緒といって差し支えないはずだ。

 ただ、この状態は過渡的であるといえる。

 筆者の見解では、イントラネットの存在は完全に消滅しないまでも、今後はホスティングサービスによる企業内ネットワークのアウトソース化が進む。つまり、SaaSによるイントラネットのアウトソースが顕著なものになっていくはずだ。これはSOX法や企業のコンプライアンスの影響による追い風も大きい。その意味で、エンタープライズ2.0の本番はこれからなのだ。

 それでは、エンタープライズ2.0はどのような方向に進化していくのだろう? 以降、幾つかの視点で見ていこう。

利用方法の変化

 Web1.0の時代のトラフィック起点はURLだ。あるいはリンクといってもいい。その結果、リンク集としてのポータルが存在価値を示した。それがWeb2.0時代のインターネットでは、トラフィックの起点は検索に移る。検索キーワード=クエリが現代のトラフィックの起点だ。

 イントラネットの現在の主役はグループウェアや社内ポータルである。さまざまなデータやアプリへのリンク集であるともいえる。しかし、今後は知りたい情報を検索するためのサーチエンジンがイントラネットにおいても主役になるだろう。

 現在の“エンタープライズサーチ”は、社内に埋もれた情報を検索する機能にすぎないが、Web2.0の検索エンジンは、情報を「調べる」というよりも、ドメインをタイプする代わりにキーワードをクエリとして渡すことで目的のページを表示する。ブラウジングのスターターとしての機能のほうが重要になっているのだ。イントラネットにおいても同様の使い方に移っていくはずだ。

テクノロジー面での変化

 WebがHTMLによる情報流通であるとすれば、フィードはRSSによる情報流通の仕組みである。

 Web2.0はフィードの力を借りて進化する。つまり、HTMLからRSS、ひいてはXMLの世界へと変わりゆく。XMLによる情報流通は、イコールセマンティックWebへとたどり着く道である。イントラネットにおいても、フィードを徹底的に活用する、いわばセマンティックなイントラネットへの進化が進むと考えられるのだ。

機能面での変化

 Web1.0ではWebの機能は「受信」と「検索」であった。

 それがWeb2.0ではブログなどの力を借りて、「受信」「検索」「発信」「共有」の4要素を有するようになる。イントラネットにおいても、同様に今後は情報の自由な発信と共有が進むだろうと思われる。

 現在のWeb、HTMLベースのWebに足りないのは時間の情報と、通知という要素である。通知については、HTMLではなくRSSに依存するようになる。

 もっともエンタープライズ2.0的なサービスは、RSSによる通知機能を持ち、あるいはRSSを登録して購読させる機能を持つものとなるはずだ。

具体的な例を挙げると

 最後に、筆者がプロデュースするmodiphiについて触れさせていただこう。modiphiは、フィードを用いてデータコンテンツの流通を促進するサービスであるが、同時に最近社内情報共有ツールとして利用する、ソリューション販売の発表を行っている(関連記事参照)

 名称はmodiphi-ECRと呼ぶのだが、PC、Macおよび携帯電話上から、RSSによる情報の受信、検索、発信、共有を可能にしている。いわゆるイントラブログに近いものだが、ブログというHTMLを基本として生成しない、という点が異なっている。同時に、外部のフィードを自由に登録し、社内で共有することが可能だ。また、ECRealリーダーをベースとしたFLASH型RSSリーダーを使って社外でもケータイから情報の閲覧ができる。

 このような、比較的簡易ではあるが、インターネット上で日頃から行っている情報共有のやり方を踏襲した、軽くて速く、使いやすいツールが、エンタープライズ2.0の名の下に、今後は続々と登場してくると考えている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ