第1回 ビジネスインテリジェンスは誰のため?ビジネスインテリジェンスの新潮流 〜パフォーマンスマネジメント〜(3/3 ページ)

» 2007年09月27日 07時00分 公開
[米野宏明(マイクロソフト),ITmedia]
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「データ分析」の限界

 しかし、ここで大きな壁となって立ちはだかるのが、「データ分析」の難しさだ。分析テクニックの話ではなく、分析の「着眼点」を見つけるのが難しいのだ。

 データ分析にはさまざまな手法があるが、一般的なビジネス分析においては、「グラフ解析」が中心になる。グラフ化することで、複数のデータの比較や時系列での変化を見ることができる。このグラフ解析で重要なのは、最初に「こうではないか?」という分析の着眼点、すなわち「仮説」を立てる必要があることだ。「製品間の売り上げの変化に違いがあるかもしれない」という仮説があってこそ、製品ごとの売り上げ推移を折れ線グラフにして比較しようとするのだから。したがって、最初の仮説が的を射ていれば、意味のある分析結果が出てくるし、そこからどんどん掘り下げていくこともできる。逆に最初の仮設が見当違いであれば、その先で何もできない。そして、このように仮説の設定が最も重要であるにもかかわらず、通常はそれを個人の経験と資質に頼ることになる。

 データはただ並べ立てるだけでは何も示してはくれない。そこから真実の姿を想像するためには、限られたデータ=事実を、経験に基づき解釈する必要がある。例えば、1人の「顧客」は唯一実在する真実である。しかし、その顧客に関連するデータ、すなわち事実は、年齢、性別、住所、趣味といった属性情報から、提案や購買などの履歴情報まで実にさまざまあり、それらをすべてかき集めたところで、もちろん「顧客そのもの」にはなり得ない。つまり、事実をどのような方向から見つめるかによって、そこから想像する顧客像がずれてくるはずだ。

 目の前でクレームを伝えてきている顧客が、将来のロイヤルティ顧客なのか、その逆となるのかを、事実の断片だけで想像するのは難しい。営業の勘では大事にすべきと思っても、財務リスク上は無視すべき相手と判断できるかもしれない。新入社員か営業一筋ウン十年のベテランかで、また対応も違うだろう。そして、営業だから、ベテランだからといって必ずしも正しいとも限らない。これら顧客像の違いは、データが示す事実から、顧客の真実を想像する人の「経験」の違いがもたらすものであり、その「経験則」は瞬時の判断において役立つこともあれば、「先入観」となって判断力を曇らせることもある。

「パフォーマンス マネジメント」による解決

 意思決定を、そのような現場社員の経験と資質に頼ることは、当然リスクが高く、マネジメント上好ましくない。かといって、分析作業を少数の優れたアナリストに頼りアウトプットを現場で共有する、という選択をしたとしても、同じことだ。事実から真実を洞察する過程では、個人の経験則と先入観を避けて通ることはできない。したがって、現場から離れた、限られた経験しか持たないアナリストに、その現場の実情に応じた的確な分析を求めるのは無理がある。また現場が求めるのはスピードであり、アナリストたるべき品質ではない。

 個人の経験と資質に頼り、1人の人間が膨大なデータを集めたり、ひっくり返したり、掘り下げたりする伝統的なBIは限界がある。であれば、組織全体でそれを最適化すれば良いのではないか。組織にはさまざまな背景と経験を持つ人材がいて、それぞれの業務においてプロフェッショナルとして活動している。ともに同じ土俵で会話ができるよう、組織の共通言語、すなわち組織の戦略に従って、お互いの経験や視点を共有できれば、洞察の幅も深さも広がるはずだ。これこそが、「パフォーマンス マネジメント」と呼ばれるアプローチの神髄だと考えている。次回はこのパフォーマンス マネジメントの本質について触れてみたい。

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