Ciscoは有線/無線LANや携帯電話網をハンドオーバー接続して通話やアプリケーション利用のモバイル性を高める新構想を発表した。
米Cisco Systemsは5月28日、企業における通話やアプリケーション利用、資産管理などのモバイル化を支援する新構想「Cisco Motion」を発表した。有線/無線LANや携帯電話網、近接無線接続技術(NFC)などをシームレスに接続し、事業活動におけるモビリティを飛躍的に高めるという。
Cisco Motion構想は、外勤や在宅勤務など近年多様化する企業の労働環境に対応して、コミュニケーションやアプリケーション利用、資産管理、ワークフローなどに高度なモビリティを提供する。ワイヤレス技術と強固なセキュリティ環境を組み合わせ、業務生産性の向上、IT分野への投資効果を最大化させるものだと同社では説明している。同社が中核となるエコシステムを構築し、アプリケーションベンダーやモバイルデバイスなどのメーカー、通信事業者などのパートナー企業と共同で、企業のモバイル化を支援していくとしている。
国内メディアに対し、テレカンファレンスで構想を説明したワイヤレスネットワーキングビジネスユニットマーケティング担当のマチェイ・クランツ副社長は、「会社と家庭との境界線がなくなり、企業はどのような場所でもビジネスの一貫性を保つことのできるインフラを望んでいる」とコメントした。
Ciscoは同日、この構想を具現化する中核製品として「モビリティサービスエンジン(MSE)」と呼ぶアプライアンス「Cisco 3300シリーズ MSE」と、MSEで利用するための4種類のソフトウェアスイート「Context Aware」「Adaptive Wireless IPS」「Secure Client Manager」「Mobile Intelligent Roaming」を発表した。
MSEは、データセンターや社内ネットワークのゲートウェイ部に設置するだけで、有線および無線の社内ネットワークと外部ネットワークの接続、各種ソフトウェアスイートを実行する基盤になるものだという。ソフトウェアスイートは、「カプア」と呼ばれる独自プロトコルやMSEが提供するAPIを利用して、既存の業務システムおよびPC・携帯電話、無線ICタグなどの各種デバイスと連携する。拠点単体での導入だけでなく、複数拠点をまたいでの導入や運用にも対応する。
Context Awareは、ネットワーク上にあるデバイスや人物の位置情報や状態情報を収集・通知を行う。「例えば医療機関で利用する場合、看護士が使いたい器具がどこにあるのか、使用中かどうかといった情報を得ることができ、最寄りの人物に運んできてもらうといったことができるようになる」(クランツ氏)
Adaptive Wireless IPSは、ネットワーク全体を監視対象としたIPS(不正侵入防御システム)の機能を提供する。DoS(サービス停止)攻撃や不正アクセスからネットワークを保護し、攻撃時には手口や影響度の分析、管理者へリポーティングをする。Secure Client Managerは、ネットワーク接続されるPCやモバイルデバイスの資産管理機能を提供し、各種デバイスの状態把握やセキュリティポリシーの管理、アプリケーション管理などができる。
Mobile Intelligent Roamingは、携帯電話網と企業内の無線ネットワークをハンドオーバーするためもの。デバイスの接続先を常に監視し、ネットワークが切り替わった場合にはセッションを中断することなく、シームレスに切り替える機能を提供するという。クランツ氏によれば、Intelligent Roamingを利用することで、企業はIP-PBXやユニファイドコミュケーション、無線LANなどの投資効果をさらに高められるという。
MSEに接続するデバイスには、各種ソフトウェアと連動するためのエージェントとなる「Cisco Client Extension」が搭載される。
Cisco Motionには、HP、Oracle、IBM、Nokiaのほか、技術関連ではAgito Networks、Airetrackなどが賛同を表明した。各社は、MSEに対応したアプリケーションやソフトウェア、デバイスを順次提供する予定。すでにCiscoと提携するGE HealthcareやPhilips Healthcareでは医療業界向けのソリューションを提供するという。
Cisco 3300シリーズ MSEおよびMSEに搭載するOSやミドルウェア群のパッケージ「Cisco Unified Wireless Networks Software Release 5.1」、Context Awareを7月に出荷する。2008年第4四半期にAdaptive Wireless IPSとMobile Intelligent Roaming、2009年第1四半期にSecure Client Managerをそれぞれ出荷する予定で、価格は未定となっている。企業はMSEとUnified Wireless Networks Software Release 5.1を導入し、希望に応じたソフトウェアスイートを組み合わせて使用するライセンス体系になるという。なお、Intelligent Roamingを利用するには通信事業者との合意が必要なため、現段階では利用できる事業者や国・地域が未定となっている。
同社ではこれらの製品群を利用して、第三者が企業を対象としたモビリティサービスを展開することも可能だとしている。
クランツ氏は、企業ユーザーが対象となるモバイル市場は2010年に13億ドル規模になるといい、「通信事業者やアプリケーション、ハードウェア、システムインテグレターを中心としたエコシステムの拡大を推進する」と話す。将来的には、ユーザーニーズを受けて、提供するソフトウェアスイートの種類を拡充する計画だという。
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