Citrixのアプリケーション・デリバリーは「新・仮想化」

仮想化技術を提供するベンダーは数多く存在する。選択のポイントは、本来考えるべき経営の課題にITがアドレスできるかという視点だ。そうした意味で、「新・仮想化」によるアプリケーション・デリバリーを提供するCitrixは大注目だ。

» 2008年06月25日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
山中氏

 「これまで、コンピューティング性能がリニアに上がってきたのはムーアの法則を持ち出すまでもないですが、ネットワーク性能がそれに追随できていなかったので、データセンターはこれまで華々しい成功を収めてきたというわけではなかった」と語るのは、シトリックス・ジャパンでマーケティング本部本部長を務める山中理惠氏。厳しい物言いではあるが、データセンターの抱える問題を端的に表現している。

 Citrixは従来から、「Citrix Presentation Server」(旧MetaFlame)によるアプリケーションの仮想化を提供しており、かなりの成果を収めてきたが、その一方で上述した問題を解決しようと戦略を進めてきた。

 その戦略が誰にでも理解できるようになったのが、2007年に発表されたXenSourceの買収だろう。同社はそれまでにも複数の企業を買収してきたが、オープンソースの仮想化ソリューションを提供するXenSourceの買収を終えたことで、それまで提供してきた“アプリケーションの仮想化”に加え、「Citrix XenServer」による“サーバの仮想化”、「Citrix XenDesktop」による“デスクトップの仮想化”といった3つの仮想化技術をコアとするエンド・ツー・エンドの統合された仮想化インフラを手にすることとなり、同社のポテンシャルを最大限に発揮できる体制が整った。

 そしてこの2月には、Citrix Presentation Serverを新ブランド「Citrix XenApp」に変更、同製品を含めた主要製品を包括する新ブランド「Citrix Delivery Center」を立ち上げ、アプリケーション・デリバリーを提唱している。

XenApp、XenServer、XenDesktopといったXenファミリーの製品群、そしてこれにNetScalerを加えた「Citrix Delivery Center」により、エンド・ツー・エンドの統合された仮想化インフラが提供される。今、これを検討しない理由はない

経営の課題にアドレスできていないIT

 「一時期盛んに使われていた『Web2.0』も、ブラウザ経由で必要なものをいつでもどこでも提供するという意味ではアプリケーションの仮想化の一種」と山中氏。サーバ上のアプリケーションをネットワーク経由でエンドユーザーに配信するという考えは、固くひも付いていたデバイスとアプリケーションを切り離し、個々のエンドユーザーに合わせた最適なデスクトップ環境を動的に提供しようとする思想が根底にある。運用管理の観点では、それぞれのクライアントPCごとに行ってきたアプリケーションやデータの管理を、サーバ上で集中的に管理できるため、管理コストの削減やセキュリティの向上につながる。こうした考え方を企業が意識しないはずがない。

 しかし、企業の情報システムの多くは、こうした恩恵を得られにくい構造となっている。ネットワークコンピューティングに注目し、実際に導入も図っている企業も存在するが、現実には、個々のテクノロジーがサイロ状に分断されており、それらを何とか運用しているのが現状である。これでは、いつまでたってもオペレーションやメンテナンスのように本質的には企業の競争力につながらない部分にIT予算を割かざるを得ず、技術革新への投資が進まないという事態に陥ってしまう。

 既存のシンクライアントシステムにしても、その普及がなかなか進まない一因として、エンドユーザーの行動を結果的に制限してしまうことが挙げられる。また、データの漏えいなどを防ぐためのシンクライアント導入といった背景には、取りも直さずエンドユーザーを信頼できないという思想も見え隠れする。エンドユーザーは半ばあきらめた様子で導入を受け入れてきていたかもしれない。

 “限定的な”業務を行うためのシンクライアントで終わってしまう危険性があるというのは、XenApp単体で提供されていたころのCitrixも悩んでいた部分である。エンドユーザーの中にはエキスパートやヘビーユーザーと言われているような人たちも存在しており、彼らのニーズをどう満たすか、言い換えればあらゆるエンドユーザーの要求に合わせたシステムを提供できるかがシンクライアントの次の課題として挙がっていたからだ。

「あなたの会社のIT予算のどれほどが本来考えるべき経営の課題に答えるものとなっているかをマネジャー層であれば一度振り返ってみるとよいでしょう」と山中氏。その改善をサポートするためにCitrixは他社に先駆けて先手を打っている

 「企業の情報システムが抱える最大の問題、それは、本来考えるべき経営の課題にITがアドレスできていないこと」と山中氏はこうした問題に共通する真理を指摘する。そして、そうした問題を改善できる次世代のITインフラは、仮想化技術によって抽象化されたコンピューティングリソースを提供できるかどうかである。そして、コンピューティングリソースがアプリケーションだけではないことは明白だ。データセンターからクライアントPCまでを結ぶすべての要素がコンピューティングリソースであると考えるなら、それらをモジュール化し、目的に応じて動的に構成できないか、従来のようにエンドユーザーのクライアントPCにデプロイ(配備)するものから、ダイナミックにデリバリー(配信)できないか――Citrixはこう考え、その答えとして導き出したのが上述の「Citrix Delivery Center」である。

 世に仮想化技術を提供する企業はほかにも存在するが、よくよくみてみるとポイントソリューションでとどまっているものも少なくない。Citrixは、アプリケーション・デリバリーに必要な要素を吟味し、それを実現するための買収を行ってきた。仮想化技術でXen、そして、ネットワークの部分ではいわゆるマルチレイヤースイッチであるNetScalerを1社で提供できるのである。

 これらに加え、先月、CitrixとAkamaiがWebアプリケーション配信事業で提携を発表したことは、今後大きな意味を持つ。エンタープライズアプリケーションがWebアプリケーションとして提供されるケースも珍しくなくなった現在、クラウド型のトラフィック高速化ネットワークを持つAkamaiと、NetScalerによるネットワーク高速化、およびデータセンター改めデリバリーセンターの仮想化技術を持つCitrixが手を組んだことで、アプリケーショントラフィックのさらなる高速化が見込まれる。高速なネットワークが整備されている日本に閉じているならともかく、分散型開発などグローバルで展開する企業にとって、この意義は大きい。

 まとめると、Citrixが考えるダイナミック・アプリケーション・デリバリーとは仮想化技術の進化形であり、シンクライアント、仮想化技術のそれぞれが提供されていたころに比べ、はるかに洗練された印象を受ける。そして重要なのは、データセンター改めデリバリーセンターのリソースをネットワークの向こう側にいるエンドユーザーが求める形で柔軟かつ高速に提供できる包括的なソリューションは、現時点でCitrixのみが有するという揺るぎない事実だ。2008年は「新・仮想化」技術を提供するCitrixが日本市場でさらに活躍するだろう。

 「仮想化を考えなければ、コンピューティングとネットワークの融合を次のレベルに到達させるのは難しい。企業にとって仮想化は遠い将来ではなく、既存のシステムを変革し、本来の目的にITを利用する第1歩」(山中氏)

 なお、今回紹介したCitrixのダイナミック・アプリケーション・デリバリーの詳細については、来る7月9日(東京)、7月11日(大阪)で開催される「Citrix Application Delivery Conference」の会場で明らかになる。注目しておきたい。

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