HPのEDS買収に見るIT産業構造変化の予兆Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年09月01日 09時51分 公開
[松岡功ITmedia]
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クラウド時代をにらんだ買収劇

 最近では、米Microsoftによる米Yahoo!への買収騒動に代表されるように、IT企業によるM&A(買収・合併)の動きは、ネットサービスが脚光を浴びる傾向が強い。そうした観点からすると、今回のHPによるEDS買収は、長い歴史を持つIT企業同士が一緒になって生き残りを図るという構図にしか受け取られていない面もあるように思う。

 果たしてそうだろうか。筆者は、今回のHPによるEDS買収が、IT産業全体からみても新たな構造変化の予兆を示しているのではないかと考える。その理由は、HPがEDS買収で強化を図ったITサービス、中でも特にアウトソーシングが、IT産業の新たな構造変化の鍵を握っていると見ているからだ。アウトソーシングの延長線上には、クラウドコンピューティングやSaaSビジネスの展開がある。つまり、今回のHPによるEDS買収も、来るべきクラウドコンピューティング時代をにらんだ動きととらえることができる。

 IT企業の事業分野を、ハードウェア、ソフトウェア、ITサービス、ネットサービスに大別すると、クラウドコンピューティング時代に向けてはそれぞれのアプローチの仕方があるとともに、得意分野を補い合ったM&Aや協業によって新たな勢力争いが巻き起こるだろう。

 以前、本コラムでも紹介したが、今回EDSを買収したHPは7月、Intel、Yahoo!と共同プロジェクトを組んで、教育機関や政府機関を対象にしたクラウドコンピューティングのテスト施設を開設している。そこで得た技術やノウハウは、企業向けを中心としたEDSとの連携ビジネスにも当然活用されるだろう。

 最後にあらためて強調しておきたいのは、クラウドコンピューティング時代の勢力争いでも、決め手になるのはやはり顧客ベースにあるということだ。その意味でもITサービス企業、中でもアウトソーシングに強い企業が、今後のIT産業の新たな構造変化における一番の担い手になる可能性は大いにある。はたしてHPはそうしたEDSの企業価値を活かすことができるか、注目していきたい。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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