そのためにGoogleが採った手段が、オープンソース化である。これによって同社はGoogle Chromeを、Webアプリケーションの開発プラットフォームとしても確固たるものに仕立て上げていく構えだ。しかも「オープンソースで公開したパーツは、ほかのWebブラウザの機能向上にも役立つだろう」(前出のGoogle幹部)と言うように、Webブラウザ全体のパフォーマンスの“底上げ”にも貢献したい考えだ。
Webアプリケーションの開発プラットフォームとしてのWebブラウザ ―― 実はこの発想が、コンシューマー市場だけでなく、企業のIT活用にも大きな影響を及ぼす可能性がある。OSの種類を問わないWebブラウザが、Webアプリケーション開発プラットフォームになれば、開発者はこれまでのようにOSを意識しなくてもアプリケーションを開発できるようになる。これは実行環境においてもしかりだろう。
この発想は、一部のWebブラウザでは以前から積極的に取り入れられていたが、OSと一体化しているMicrosoftのIEは基本的な思想が違っている。それは取りも直さず、MicrosoftがWindowsで一時代を築いてきたクライアント/サーバ型コンピューティングと、このところ大きなうねりとなりつつあるネットワーク型コンピューティングにおける思想の違いにほかならない。そのネットワーク型コンピューティングを象徴するのが、SaaSでありクラウドコンピューティングだ。
つまり、Google ChromeのようなWebブラウザがSaaSなどと深く連携するようになれば、ネットワーク型コンピューティングの普及に加速度が増し、今も企業のITシステムの主流であるクライアント/サーバ型コンピューティングは早晩、衰退していく可能性が高い。
Google Chromeの出現は、確かにWebブラウザ市場のバトルには格好の話題である。だが、Webブラウザ市場のシェア争いに目を奪われていては、本質を見失うかもしれない。この新Webブラウザの出現は、とくに企業のITシステムにとっては、根本的な仕組みや利用環境の変化をもたらすきっかけになりうる。ただ、システム関係者にとっては大きな変化だが、エンドユーザーはそうした変化を意識させないものになるかもしれない。
そう考えていくと、Googleの壮大な野望が見えてくる。
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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