クリストウ上席常務はさらに、新サービスを提供するために必要なものとして、「拠点設備の強化」「サービス品質の標準化」「人材育成」の3つを挙げた。
拠点設備の強化としては、データセンターを2月にタイ、4月に韓国、6月にロンドン近郊に新設。今後、オーストラリアやシンガポールにも開設し、今年度中に世界16カ国で合計85カ所に配置する予定。サービスデスク拠点も47カ所とする計画だ。
サービス品質の標準化については、IT運用のグローバルスタンダードであるITILに準拠した運用サービス手法やサービスレベルなどの標準化を推進。また、同社のサービス品質標準化のコンセプトである「TRIOLE(トリオーレ)」の下、ITシステムの組み合わせをあらかじめテンプレート化して提供することによって、“ITサービスの工業化”を図っていく。
こうしたサービス品質の標準化における取り組みは、これまでクリストウ上席常務が陣頭指揮を執ってきた英国子会社の富士通サービスですでに実績を上げていることから、同社の成功モデルをグローバル展開していく構えだ。
また、人材育成については、リソースの適正配置やグローバルレベルでの人材交流を実施するとともに、グループ各社と共同で教育プログラムを開発・適用し、高度なスキルを持つ技術者の育成に取り組んでいく計画だ。
海外ビジネスに力を入れる富士通は、3カ年の中期経営計画の最終年度である2009年度に、海外売上高比率40%超(07年度は36%)を掲げており、とりわけグローバルでのITサービスの強化が喫緊の課題となっている。そのため、同社のサービス事業を統括する石田上席常務も、「グローバル展開では通貨も円を基軸とせず、ドルやユーロでビジネスを伸ばす」との姿勢を強調した。
はたして富士通は、ITサービスの“世界メジャー”になれるのか。民間調査会社であるガートナーの調査結果によると、2007年のITサービスの世界市場シェアでは、1位IBM(7.20%)、2位EDS(2.94%)、3位アクセンチュア(2.74%)に続いて、富士通(2.48%)は4位。ただ、5位のHP(2.25%)が今年8月にEDSを買収したことからHP・EDS連合を合計5.19%とみると、同市場ではIBMとHP・EDS連合が2大勢力を形成しているとも見て取れる。
しかし、クリストウ上席常務はそんな見方に対して、「世界トップのIBMでさえシェアは7%強。富士通グループは4位となっているが、順位よりも注目すべきは『その他』が82.39%もあることだ。ここにまだ相当のビジネスチャンスがある」と切り返した。
さらに石田上席常務がこう続けた。
「ITサービスの強化は、クラウドコンピューティングへの対応にもつながる。富士通はクラウドコンピューティング時代におけるグローバルブランドのメインプレーヤーになるためにも、ITサービスの強化を急がなければならない。クラウドコンピューティングでは、サービスの仕掛けとセキュリティが勝負の分かれ目になる。その土俵へ持ち込めば、当社にも大いに勝機はある。今回の新サービスはその第1弾でもある」
ITサービス、さらにはクラウドコンピューティングの“世界メジャー”として、「FUJITSU」がIBM、HP・EDS連合と並び称されるようになるかどうか。このところ、グローバルなIT市場の動きを話題にする際、ともすれば日本企業の存在感が乏しかっただけに、大いに注目していきたい。
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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