Fedora、OpenSUSE、UbuntuなどのLinuxディストリビューションがほぼ半年に一度という形でリリースを行っている中、相変わらず次のリリースが来ない……という話ばかりのDebian GNU/Linux。しかし、ようやくDebianも次のリリースがほぼ確定した。2月14日、そう、バレンタインデーにDebian 5.0、コードネーム「Lenny」がリリースされる予定だ。
Lennyは、Debian 4.0(Etch)と比較して何が変化したのだろうか。端的に言うと、「大きな違いはなくアップデートがメイン」であり、ドラスティックな変更はされていない。それでも「サポート対象の増加」「パッケージの更新」「公式Live CD/DVDの提供」など幾つかのトピックを挙げることができる。以下ではこれらについて紹介していこう。
Fedora、OpenSUSE、Ubuntuなどのディストリビューションがi386を含めせいぜい数種類のアーキテクチャしかサポートしていないのに対し、Debianでは2けたを超えるアーキテクチャをサポートしてきた。
そして今回、主に組み込み用途で使われるARMアーキテクチャについてARM EABI(armel)のサポートが公式に追加された(従来のARMは「OABI」として区別される)。armelでは、従来、ソフトウェア側で行っていた浮動小数点演算部分をハードウェア側で処理させることが可能で、OABIより高速に動作するのが特徴となっている。ARMアーキテクチャについてはLennyをベースにDebianのソースパッケージをクロスビルドして組み込みのARMシステムに最適化された「Emdebian 1.0」も提供されている。
また、完全にサポートされたわけではないが、FreeBSDカーネルを利用する「Debian GNU/kFreeBSD」も利用可能となっている。興味がある方はDebian Wikiの情報を参考に試してみてほしい。
Debian名物とも言えるサポートパッケージ数だが、Etchが1万8000個だったのに対し、Lennyでは2万3200個、割合にして30%ほど増量された。単に増えただけではなく、3000個ほどのパッケージがEtchから破棄されているため、実際には50%近くの新規パッケージがサポートされたことになる(新規に追加されたパッケージは7700個程度)。詳しくはリリースノートを参照してほしい。
これだけの数のパッケージを収録するため、何とBlu-rayディスクでのインストールがサポートされた。ディストリビューションでBlu-rayでのインストールをサポートする必要が出てきたのはDebianならではだろう。ただし、通常インターネットに接続が可能な環境であれば、Blu-rayや大量のCD/DVDのイメージは必要なく、200Mバイト足らずのネットワークインストール用CDを利用するのがベストな選択である。また、Windowsからのインストールツールも含められており、より気軽にDebianのインストールが可能となっている。Debianというと「難しい」「素人には扱えない」と思われがちだが、時代は変化し続けているのだ。
また、日本のユーザーにはあまり意識されないが、「ユニバーサルOS」を標榜するDebianでは多言語サポートが地道に進められており、Etchより5つ増えて63の言語でインストールが可能になっている。また、視覚障害者の方でも点字ディスプレイを使ってインストールすることも可能だ。
主なパッケージのバージョンは以下のようになっている。
パッケージ名 | 4.0(etch)でのバージョン | 5.0(lenny)でのバージョン |
---|---|---|
Apache | 2.2.3 | 2.2.9 |
BIND | 9.3.4 | 9.5.0 |
GCC | 4.1.1 | 4.3.2 |
glibc | 2.3.6 | 2.7 |
Linuxカーネル | 2.6.18 | 2.6.26 |
lighttpd | 1.4.13 | 1.4.19 |
MySQL | 5.0.32 | 5.0.51a |
OpenLDAP | 2.3.30 | 2.4.11 |
OpenSSH | 4.3 | 5.1p1 |
PHP | 5.2.0 | 5.2.6 |
Postfix | 2.3.8 | 2.5.5 |
PostgreSQL | 7.5.22 | 8.3.4 |
Python | 2.4.4 | 2.5.2 |
Tomcat | 5.5.20 | 5.5.26 |
ここで注意すべき変更点としては、多数の利用者がいるであろうapache2パッケージのデフォルト設定が変更されていることだ。バーチャルホスト設定のディレクティブが変更されているなど、該当のシステムを運用しているユーザーはアップグレード前にぜひリリースノートのapache2の項を参照してほしい。Linuxカーネルについては、既にLTS(Long Term Support)として2.6.28がサポートされている現状を踏まえ、今後「Lenny and a half」という形で2.6.28.xへのカーネルのアップデートが行われるものと予想されている。
また、デスクトップ系パッケージは以下のようになっている。
パッケージ名 | 4.0(etch)でのバージョン | 5.0(lenny)でのバージョン |
---|---|---|
GIMP | 2.2.13 | 2.4.7 |
GNOME | 2.14 | 2.22 |
KDE | 3.5.5a | 3.5.9/3.5.10 |
LXDE | - | 0.3.2.1+svn20080509 |
OpenOffice.org | 2.0.4a | 2.4.1 |
Xfce | 4.4 | 4.4.2 |
X.org | 7.1 | 7.3 |
今回、デスクトップ環境として軽量デスクトップ環境として人気のLXDEが新たに追加されており、GnomeではなくXfceとLXDEを最初からインストールするメディアの準備もされている。Mozilla製品互換のIceweaselやIcedoveなどについては、開発元から差分のセキュリティパッチが提供されないこととサポートの迅速さをかんがみ、基本的にバージョンアップを行う形でサポートが行われる模様だ。また、glibcのバージョンが上がったことでAdobe FlashPlayerもEtchでは利用できなかったバージョン10が利用可能になっている(FlashはDebianのサポート対象外なので注意)。
DebianをベースにしたLiveCDとしては、KNOPPIXなどの形で存在はしていたものの、今回はじめて「Debian Live」という公式のLive CD/DVDの提供がされることになった。live-helperというツールを使ってユーザー独自のLive CD/DVDを製作できるようになっている。live-helper自体はCUIベースのツールではあるが、数行程度でイメージの作成が可能だ)。
Lennyのリリースには多数の協力者による作業の成果が含まれている。リリースに向けて作業をしてくれた(そして今現在も続けてくれている)すべての人に感謝の意を捧げたい。Lennyはリリースに向けて最大限の努力が行われてきたが、完ぺきな品質とまでは言い難い。利用者からのフィードバックをぜひDebian JP Projectのメーリングリストや、問題点があればDebianバグトラッキングシステムへの登録などでお願いしたい。大きな変更点についてはLennyでは修正できないかもしれないが、次期リリース「squeeze」で反映されることだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.