このような経過の中、スタートから4年が過ぎたのを契機に電子申請のハードおよびソフトを見直した。
(1)メーカー製サーバをやめ、安価なホワイトボックス系サーバとした。
安価であることのリスクをヘッジするために、
(2)CentOSを採用するなど、すべてオープンソースを採用した。
具体的には、
(3)電子署名モジュールを除くすべてのアプリを地場開発へと切り替えた。
オープンソースを用いた上記手法は、専門誌に散見されるようなものであり目新しいものではないが、複数のオープンソースを組み合わせたため信頼性に不安はあった。しかし、運用してみると以前に比べはるかに安定した。不具合などへの対応も、職員と地場開発SEが直接対話するスタイルなので、たちどころに直っていく。
また今回は、同時に電子申請のクラウド化も進めた。少々強引ではあるが、上記の見直しを経ることで安価な運営体制を築くことができる。あとは、県庁内の各課に申請書を振り分けるのと同様に各市町村に振分ける仕組みさえ作ればよいと考えたからだ。そして、この7月3日に市町村用の振分機能と電子申請受付システムが完成した。7月後半には、モデル事業の一環として大村市がテスト運用を始める。
電子申請クラウドの年間利用料は、住民1人あたり10円。人口5万人の自治体なら50万円が年間利用料となるので、市町村にとってはメリットがある。一方、長崎県の人口は143万人しかいない。仮に全市町村が参加したとしても年間1430万円しか集まらないのだから、運営する側としてはいささか厳しい金額である。
実は、共同化の問題はココにある。人口1300万人の東京都ならベンダーに運営を任せてもやっていけるだけのお金が集まるので割り勘のメリットが出るが、人口ランキング中位以下の県となるとそうもいかない。割り勘り額を増やそうにも、このような県ほど財政力が低い。
だからといって「全国統一の電子申請センターを作ればいい」などと考えないでほしい。先に書いたLGWANのような高額負担のセンター出現が予想されるからだ。なぜなら「統一=独占」であり、しかも霞が関のお墨付きなら、「安心・安全のためには○○が必要です。△△でなければなりません」とあれこれするのが当たり前だし、長崎県がやったような手法など論外だ。
それにマスコミ対応も大きく異なる。長崎県の電子申請が半日止まっても記事にならないが、全国統一のセンターともなれば、1面に大見出しで掲載されることだろう。
長崎県がやっているようなことが是なのか、国が提唱していることが是なのかは、まだ分からない。結果が出すにはもう少し時間が必要のようだ。
しまむら・ひでよ 1963年3月生まれ。長崎県総務部理事(情報政策担当)。大手建設会社、民間シンクタンクSE職を経て2001年より現職。県CIOとして「県庁IT調達コストの低減」「地元SI企業の活性化」「県職員のITスキル向上」を知事から命じられ、日々奮闘中。オープンソースを活用した電子決裁システムなどを開発。これを無償公開し、他県からの引き合いも増えている。「やって見せて、納得させる」をマネジメントの基本と考える。
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