プライベートクラウド構築を盤石に――先進事例が示す道システム構築の新標準(2/3 ページ)

» 2009年08月05日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

プライベートクラウド事例は昔からあった

 ベンダーによるプライベートクラウドの構築事例が目立つが、プライベートクラウドという言葉が生まれる前から進んでいた大規模な取り組みもある。それは、建設関連で世界最大の規模を誇る米Bechtelの「PSN(Project Service Network)」と呼ぶ事例だ。

 Bechtelはこれまで、開発関連のプロジェクトが発足するごとにサーバ環境を構築し、プロジェクトの終了とともに次の拠点に移転するというやり取りを繰り返していた。世界50カ国で事業を展開する同社にとってそれは大きな負担になり、増え続ける設計データの管理にも手を焼いていた。同社の情報システム部門は、プロジェクト管理サービスを取引先や顧客に提供する立場になる必要があると判断し、Project Service Networkの構築に乗り出した。

 開発を手掛けた2006年時点では、ネットワーク経由でサービスを提供するための基盤はほとんどなかった。そこで同社は米Google、Amazon、Salesforce.com、YouTubeなどの企業を調査し、クラウドコンピューティング関連のサービスと自社のサービス状況を比較するベンチマーキングを実施した。

 比較調査の結果から、同社はデータセンターを米国、ヨーロッパ、アジアの3カ所に集約し、仮想化技術を駆使して標準化した情報システム環境(プライベートクラウド環境)を構築した。拠点が少なくなったことで、運用管理のコスト削減やラックスペースの節約などにつながった。また、同一拠点において複数の通信事業者のサービスを利用するため、各事業者に対してコスト関連の交渉力を強めることができた。

 この事例はプライベートクラウド構築における最初の一歩となる「ITリソースの統合と共有」の段階ではある。だが、多くのインフラを有する巨大な企業にとって、拠点や部門の分散がコスト増をもたらすことは間違いない。クラウドの恩恵を享受するために、自らがサービスの提供側になるという選択が、十分検討に値することを示した事例といえる。

中堅企業における活用の道を開く動き

 プライベートクラウドで効果を得るためには、多くのITインフラを保有し、それらを統制する強いガバナンスを整備しなければならない。この恩恵を得られるのは、大規模の企業が中心だ。

 では、中堅・中小企業にとってはプライベートクラウドは無縁のシステム構築手法なのだろうか。中堅・中小企業がプライベートクラウドを構築する際に負担となるのは、「ITリソースの統合と共有」における初期投資である。ここで中堅・中小企業がプライベートクラウドの活用を可能にする試みとして、以下の2点を考えておこう。

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