F1のレース戦略を支えるデータとネットワーク、日本GPの舞台裏AT&TとWilliamsが解説(1/3 ページ)

自動車レースの最高峰F1を勝ち抜くには、膨大なデータから導き出される戦略が不可欠だ。日本GPではAT&TとWilliamsチームがデータを高速処理するネットワークの利用について紹介してくれた。

» 2009年10月09日 09時23分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 自動車レースの最高峰の「Formula 1(以下、F1)」は、最先端技術を保有する自動車メーカーやレース専業チーム、そして、高度な運転技能を持ったレーシングドライバーが競う場となっている。レースを勝ち抜くには、高性能のF1マシンを開発するだけでなく、レースごとに最高性能を引き出すための設定、そして、レース運営のシナリオといった戦略が不可欠であり、その実現にITが広く活用されている。

 従来のF1は欧州を中心に開催されてきたが、今では南米やアジア、中東、オセアニアにも広がり、2009年シーズンは3月のオーストラリアグランプリ(GP)から11月19日のアブダビGPまで16カ国17のサーキットで行われる。しかし、F1チームはいかなるGPであってもレースに勝つ戦略を導き引き出さなければならない。その背景に、F1マシンやドライバーから得られる膨大なデータが存在する。

 10月2〜4日に三重県鈴鹿サーキットで開催された日本GPでは、F1チームが情報通信インフラをどのように活用し、膨大なデータを処理してレース戦略を立案するかについて、米AT&TとF1チームの1つであるWilliamsチームの担当者が紹介した。米AT&Tは2007年から同チームに、ネットワークサービスや技術を提供している。

Williamsチームが利用するAT&Tのサービス内容

 Williamsチームは、1970年代からF1に参戦する古豪で、1980〜1990年代前半には多数のチャンピンドライバーを輩出した実績を持つ。また、F1マシンのコンピュータ制御技術をいち早く実用化しており、技術レベルの高いチームとしてF1ファンにはおなじみの存在だ。現在、同チームにはF1マシンの開発担当者や技術者、レース運営担当者、広報・マーケティング、総務など約500人が在籍しており、F1チームとしては中規模になるが、英国の一般的な企業としては中小企業に当たる規模だという。

戦略策定は数時間で

 ここで、F1レースの大まかなスケジュールを紹介しよう。各GPは金〜日曜日の3日間で行われ、金曜日は2回のフリー走行(練習走行)、土曜日はフリー走行と決勝でのスタート順位を決める予選、日曜日が決勝レースという流れで実施される。スタート順位は、サーキットを1周する時間が最も短いドライバーが最前列となり、最も遅いドライバーが最後尾になる。

 F1チームは、3回のフリー走行を通じてF1マシンの調整を繰り返し行う。予選では1周をいかに速く走るかという点でF1マシンの性能を引き出す設定を重視するが、逆に決勝では300キロメートル前後の規定周回をトラブルなく早く走りきるという点で性能と信頼性を両立させなければならない。決勝までにF1マシンがサーキットを走行できるのは、フリー走行で合計4時間半、予選では45分に限定され、各チームのドライバーやエンジニアは短時間に幾つも設定を試さなくてはならない。

 特にデータ解析や設定作業を担当するエンジニアは、曜日ごとに異なる天候や気温、路面温度いった条件から最高の戦略を導き出さなければならず、そのためにもF1マシンやドライバーからフィードバックされる膨大なデータを短時間に処理しなくてはならない。現在のF1チームとって、ITは戦略を立案、実行していくための生命線となっている。

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