次の日お父さんはサトルくんとラーメン屋で一緒に食事をしながら、「最近、学校はどうだ?」「妹は、元気でやってるか?」などのオープンな質問をして、サトルくんの言葉に極力共感するように会話を進めた。
しかし、なかなか「プロフの成りすましによるいじめ」の話題にはならなかった。お父さんは、我慢しきれなくなり、
など、自分の思いを話し始めた。サトルくんのために何か力になりたいのではなく、お父さんの気持ちとして、何かしなくてはいられないのだとも語ったそうだ。
お父さんは全く意識しなかったようだが、これは先のコミュニケーションスタイルの1つ、“ストレートトーク”である。相手に何かしてほしい、やめてほしいではなく、
「自分のつらい気持ち」「愛情」「自分の悩み」を素直に語るのだ。
ちなみに、『娘を攻撃する学校裏サイトに親としてメッセージを書いた結末』でわたしが学校裏サイトの掲示板に書いたときのスタイルも“ストレートトーク”だ。
誹謗(ひぼう)中傷コメントを書いている者を非難したり、命令したり、説教したりせず、自分がどのように悲しくつらいのかを素直に訴えたからこそ、そこでのいじめはなくなったのだ。ストレートに自分の気持ちを語ることは、テクニックではない。だからこそ、相手の心を動かすことができるのだ。
コミュニケーションスタイル「ストレートトーク」
ストレートトークは、子どもに対して「命令、指導、提案をしたい」、子どもの行動を「変えたい」など、お父さんが子どもの行動に不満、不安を感じたときに使うコミュニケーションスタイルです。
子どもに対して何をしてほしいかを“言わずに”、子どもの行動でお父さんがどのように困るのかを、素直に心を込めて伝え、子ども自身に解決方法を考えさせます。分かりやすく言い換えると、「お父さんがなぜ困るのか、何が嫌なのかを、明確に嘆く」というスタイルです。
これにより、子どもは自分がとった行動が相手をどれだけ悩ませ、迷惑をかけているかが明確に分かるようになります。やめなくてはならない本当の理由を明確に分からせなければ、本当の意味での「良い習慣=しつけ」にはなりません。
『子どもをネットから守り、ネットで育てる』より
その結果サトルくんは、現在起きていることで自分が知っていることのすべてをお父さんに話し、「正直、非常に落ち込んでいたが、今は大丈夫」「お父さんには手を出してほしくないが、専門家とお父さんの力を借りたい」「悔しいのでニセのプロフを立てた相手を付き止めたい」「何らかの形で、あれがニセであることを皆に理解させたい」と気持ちを語った。
次にわたしはお父さんに、このニセプロフを削除させるか、無視するかを決めるように頼んだ。これは、ネットの誹謗(ひぼう)中傷において、お父さんが最初に判断しなくてならないことだからだ。
→ネットファーザーの金言第2回:偽プロフ、削除させるか無視するか
日本の大手SI企業にて、業務システム販売のトップセールスマンとして活躍後、初期のインターネット構築やグループウエアシステムの企画・商品化、販売促進などでソリューション推進部のリーダーを務める。
99年、ロータス株式会社に入社し、マーケティング本部 販売促進部長などを務めた後、2003年より現在の日本アイ・ビー・エム株式会社に勤務。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『けんじろう と コラボろう!』で、ビジネススキル、コラボレーションソフトウェア、青少年のネット問題および家族について執筆して人気を博している。
著書に、『諭座 2008年9月号:ネット規制で子どもを守れるか』(朝日新聞出版)、『日本の論点 2009年度版:裏サイトから子どもを守るには〜子どもがネットのいじめにあったら』(文藝春秋社)、『子どもをネットから守り、ネットで育てる』(翔泳社)。
ネットファーザーの金言のバックナンバーはこちら、吉田賢治郎さんのブログ『けんじろう と コラボろう!』はこちらです。
企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.