Visual Studio 2010いよいよ登場、未来はコードで創られていくのか

Microsoftの統合開発環境「Visual Studio 2010」が全世界同時にリリースされた。そのビジョンは「未来はコードで創られていく」。日本でもローンチイベントが開催され、多くの開発者やSIer、ISVから熱いまなざしを向けられている。

» 2010年04月14日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 米Microsoftが4月12日(現地時間)にリリースした統合開発環境(IDE)の「Visual Studio 2010」と、アプリケーション実行プラットフォーム「.NET Framework 4」を受ける形で、マイクロソフトは4月13日、都内で「Visual Studio 2010 Ready Day」を開催した。

/* Life Runs on Code */

マット・カーター氏 Microsoft Visual Studioプロダクトマーケティングディレクターのマット・カーター氏

 Visual Studioの名を冠する製品をMicrosoftが最初にリリースしたのは1997年のこと。バージョンアップごとに機能強化が図られてきたが、この間、アプリケーションの形態がクライアント/サーバモデルからクラウドへと変化していく中で、同社のプラットフォームもWindows 7やWindows Server 2008 R2、さらにWindows AzureやWindows Phone 7、Silverlightなどが登場した。しかし、いずれもVisual Studio 2010と.NET Framework 4でカバーできるのがこの開発プラットフォームの強みとなる。

 MicrosoftでVisual Studioプロダクトのマーケティングディレクターを務めるマット・カーター氏は、「すでにあるものをサポートしながら、新しいイノベーションを発揮しているSharePointやAzureも使いたいというニーズに応えるため、責任を持ってサポートする」と話し、広範なプラットフォームをサポートするメリットを強調した。


遠藤敦子氏 マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部開発ツール製品部部長の遠藤敦子氏

 MicrosoftがVisual Studio 2010の開発で重視したのは、「創造力の最大化」「統合による最適化」「確かな品質」とマイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部開発ツール製品部部長の遠藤敦子氏は説明する。

 遠藤氏は、エンドユーザーがシステムインテグレーターなどにプロジェクトを発注する際に、品質基準を明示するケースは過半数に達し、さらに、500人月を超えるような大規模開発プロジェクトでは、予算超過や納期遅れが頻発しているのがシステム開発の現状だと説明する。効率の改善や期間の短期化、コストの削減など開発プロジェクトが抱える喫緊の課題を解決するにはプロジェクト運営レベルの取り組みが必要であり、チーム開発を包括的に支援するチームコラボレーションソフトウェア「Visual Studio Team Foundation Server 2010」によるアプリケーションライフサイクルマネジメント(Application Lifecycle Management:ALM)まで包含した製品体系となっているのが強みであるとした。

 開発ツールとしてのVisual Studio 2010は、新たに関数型言語「F#」をサポート。一部にWindows Presentation Foundation(WPF)を採用したUIは、マルチモニタに対応するなど、開発者がコーディングをしやすくするための工夫が随所に見られる。また、マルチタッチやリボンコントロールなどの最新技術を利用した開発も可能となっているほか、数年後を見据えて並列プログラミング支援の機能が追加されているのも注目すべきポイントだ。WPFやSilverlightアプリケーション開発も手軽に行えるようになっており、WinFormやVisual Basic 6.0アプリケーションから開発者が移行する流れが加速しそうだ。

 また、UML(Unified Modeling Language)対応を含むモデリング機能の強化も見逃せない。これまでのVisual Studio製品ではクラス図にしか対応していないなどUMLの扱いがややあいまいだったが、Visual Studio 2010では、アクティビティ図、ユースケース図、シーケンス図、コンポーネント図などが用意されており、設計をより容易に行えるようになった。

 機能強化のポイントは多いが、遠藤氏は「IntelliTrace」が特徴的だと話す。IntelliTraceは、デバッグの履歴を保持し、デバッグ途中でもメソッドの呼び出し状況や変数の状態などを過去にさかのぼって参照できるというもの。ブレイクポイントで予期せぬ値が返ってきた場合でも再実行することなくその前のコードの変数値などを確認できる便利な機能となっている。このほか、テスト関連の機能が増えており、デバッグに掛ける時間を短縮できるようになっている。

Java開発もVisual Studioで

 Visual Studio 2010の名を冠す製品はクライアント側にだけ存在するのではない。上述のVisual Studio Team Foundation Server 2010のほか、包括的なテストの実施と管理を行う「Visual Studio Test Professional 2010」、同社の仮想化技術「Hyper-V」を利用してテスト環境を仮想マシン上に構築、ライブラリ化する「Visual Studio Lab Management 2010」、「Visual Studio Team Explorer Everywhere 2010」といった製品が用意されている。なお、Visual Studio Lab Management 2010は少し提供が遅れ、2010年度中の提供になるという。またこの日、Silverlight 4が今週リリースされることも明らかとなった。

 このうち、Microsoftの野心的な意図が見え隠れするのが、Visual Studio Team Explorer Everywhere 2010だ。端的に説明すると、クロスプラットフォーム環境からVisual Studio Team Foundation Server 2010にアクセスするための製品である。具体的には、ユーザーも多いオープンソースのIDE「Eclipse」のプラグインのほか、コマンドラインインタフェースが用意されている。

 この製品は、Microsoftが2009年11月にSourceGearから買収した「Teamprise Client Suite」をベースにしたもの。EclipseやWindows以外のOSを利用して開発を行っている場合でもTeam Foundation Serverへのアクセスを可能にし、管理やコラボレーションなどを統合しようとするものだ。Java開発もVisual Studio製品群が提供するALMの枠組みの中に取り込もうとしている点で注目したい製品だ。

 製品ラインアップはVisual Studio 2008と比較すると単純化してあり、ALMの全工程をカバーし、設計から運用までのすべての機能が搭載される「Ultimate」を最上位エディションとし、Premium、Professionalの計3エディションが製品として用意される。このほか、無償で利用できるVisual Studio 2010 Expressが用意されている。

Visual Studio 2010で実現するALMとその製品構成

 この日、MSDN Subscription会員向けにダウンロード提供が開始されたVisual Studio 2010は英語版で、日本語版の提供などは以下のようなスケジュールが引かれている。

  • 4月13日 Visual Studio 2010(英語版)リリース
  • 4月20日 Visual Studio 2010(日本語版)リリース
  • 4月27日 Visual Studio 2010 Expressリリース
  • 5月1日 ボリュームライセンス提供開始
  • 6月18日 パッケージ販売開始

 価格についてはこちらに参考価格が示されているが、パッケージ版の価格で、Ultimateが164万円、Premiumが75万円、Professionalが16万5000円(いずれもMSDN Subscriptionが1年分付属)など。なお、Professionalについては、Visual Studio 2005/2008 Standardエディションからの乗り換えパッケージが1万本限定で3万9800円で提供されるほか、MSDNなしのパッケージについて、最新のWindows OSやSQL Serverを開発用途に限定して1年間無償で使用できる「MSDN Essentials Subscription」が提供される。

 このうち、Visual Studio Team Foundation Server 2010は、前バージョンでは38万円だったパッケージ価格を6万8000円まで引き下げるという大胆な価格戦略を採っており、ALMの浸透を促進したい考えだ。

 カーター氏は、日本は数多くの開発者が存在する重要な市場であるとし、ローカライズも優先して取り組んだと説明。チームを重要視する日本ではVisual Studio 2010がよい結果をもたらすことになるだろうと述べるとともに、「ソフトウェア作りをアートのようなものとして取り組んでいる方々には、当社のやり方が適している」と新製品の完成度に自信を見せた。

SIerやISVもいち早く対応を表明

 Visual Studio 2010の対応を表明したシステムインテグレーターやISVは41社に上ると遠藤氏。この日は4社が具体的な対応状況について説明した。

 NECのソフトウェア生産革新部マネージャの小林茂憲氏は、同社の業務システム向け統合開発環境「SystemDirector Enterprise」(SDE)において、開発プロセスの各工程を効率化するツールをVisual Studioをベースに強化していると説明。すでに実プロジェクトでVisual Studio Team Foundation Server 2010を検証するなど、積極的に連携強化を図る姿勢を明らかにした。

NECの小林氏はSDEの開発プロセスでVisual Studio 2010とのシナジーを出せると説明

 NTTデータからは技術開発本部ソフトウェア工学推進センタのシニアエキスパートである津阪健司氏が、同氏の所属するソフトウェア工学推進センタで.NET開発用の開発環境を本格的に整備するに当たって、Visual Studio 2010およびTeam Foundation Serverの検証を進めていると説明した。これらの成果は将来的にNTTデータグループへの普及展開も視野に入れて進めているという。同氏は、効果が期待される機能として、上述のIntelliTraceのほか、ソースコードをチェックインする前に、自動ビルド、ビルド検証、単体テストを実施し、品質を事前にチェックしてからチェックインを許可する「ゲートチェックイン」などを挙げ、より高いレベルのソフトウェア開発に取り組んでいきたいとした。

NTTデータの津阪氏は具体的な機能名を挙げながらNTTグループにおける.NET開発環境にVisual Studio 2010を活用していきたいという

 新日鉄ソリューションズ技術本部ソフトウェア開発センター所長の渡邉俊治氏は、同社がこの4月から展開している「NSSDCクラウド」でVisual Studio 2010の適用を図る考えを示した。NSSDCクラウドは、システム開発基盤となる開発/テスト環境を同社のクラウド基盤「absonne」上に構築したもので、.NET開発のフレームワークには、.NET Frameworkに準拠した「AmiNavire」を用いているが、これをVisual Studio 2010と.NET Framework 4に置き換えることで、品質と生産性を高めていきたいと述べた。すでにVisual Studio 2010のRC版で動作確認は終えており、現在はシステム研究開発センターで検証中であるという。

新日鉄ソリューションズの渡邉氏は自社で提供するクラウド開発/テスト環境にVisual Studio 2010を利用する構想を示した

 この日、唯一ISVパートナーとして登壇したのはエムオーテックス取締役執行役員ProductCenterマネージャーの中本琢也氏。同社のネットワークセキュリティ統合管理ツール「LanScope Cat」の次期バージョン「Cat7」の開発にVisual Studio 2010を採用、Silverlight 4を用いて全面リニューアルする予定であることを明かした。同氏は、「これまではDelphiと紙ベースで開発を進めていたが、“攻めの開発”を行うにはALMへの取り組みが欠かせない」とし、Team Foundation Serverの導入によって開発効率が275%改善したと話した。現在は6名のプロジェクトチームで使用しているが、2010年8月をめどに開発者全員に、さらに12月までに全社で活用するという。

エムオーテックスの中本氏はTeam Foundation Serverの導入で大幅な開発効率の向上を実現したと説明する
変更履歴:本文中、正しくは「全工程」とすべき表記を「全行程」としていました。お詫びして訂正いたします。[2010/04/14 19:10]


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