Appleとの溝を深めるも将来に自信を見せるAdobe

Adobeの経営陣がそろって来日し、今後の経営戦略などを説明した。Appleとの関係について報道陣の興味は集中したが、Omnitureを買収したことで得たクリエイティブワークフローの完成が、今後同社のビジネスに大きな影響を与えることになるだろう。

» 2010年04月23日 17時49分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 アドビシステムズは4月22日、都内で事業戦略発表会を開催。米Adobe SystemsからCEOをはじめとする各ビジネスユニットのトップが揃い、2009年に買収したOmniture事業や、5月28日の発売を予定している「Adobe Creative Suite 5(CS5)」の紹介、エンタープライズ戦略など経営戦略の説明を行った。ケビン・リンチCTOの出席がなかったのは残念だが、同社のかじを取るキーパーソンが日本でそろい踏みしたのはこれが初となる。

FlashとCS5をアピール

シャンタヌ・ナラヤン氏 「FlashはAdobeだけではなく、ユーザーにとっても重要」とナラヤン氏

 Adobe Systemsの社長兼CEO、シャンタヌ・ナラヤン氏は、Web上に存在するのが単なるコンテンツだけではなく、アプリケーションも含むようになったと話し、コンテンツの制作だけでなく、最適化による収益の最大化まで含めた視野を持つべきだと強調した。さらに、プラットフォームがデスクトップ、ノートブック、携帯端末、TVなど、マルチスクリーン化している流れを説明し、一度作成したコンテンツをマルチに適用できるFlash技術が今後ますます同社の追い風になると述べた。

 PDFやAdobe Flash Platformといったマルチプラットフォームに対応した技術を軸に、クリエイティブプロフェッショナルやデベロッパー、ナレッジワーカー、さらにOmnitureを買収したことでマーケッターなどにもリーチできるソリューションを持つに至ったAdobe。コンテンツやアプリケーションについて、作成、配信、最適化のサイクルを回すためのソリューションを有していることが自社の価値であると説明した。

 「(CS5は)Adobeの歴史上最もエキサイティングなもの」と話すのは、クリエイティブソリューション事業部門担当上級副社長兼ゼネラルマネージャのジョン・ロイアコノ氏。CS5が提供する各種機能はPixar Animation Studiosをして「どんな魔術を使っているんだろう」と言わしめるほど、クリエイティブに関するワークフローに対し、これまでにない劇的なフィーチャセットを提供している。

 ロイアコノ氏は、クリエイティブに必要不可欠な機能を提供し、さらにクラウドサービスなども積極的に提供したCS5をデモを交えながら紹介した。そして、多くの企業がCS4にアップグレードすることなく、CS3あるいはCS2を使っている点、経済状況が多少なりとも好転していることなどが、CS5を取り巻く有利な環境であるとし、同社の売り上げの約半分を占めるCS製品への強い自信を見せた。

Packager for iPhoneへの投資は中止

 しかし、報道陣の注目は、Appleとの確執を問うものが多かった。これは、Appleが次期iPhone OS「iPhone OS 4.0」のSDK利用規約で、互換ツールなどを利用して作成したアプリケーションを禁止したことによるもの。これにより、FlashアプリをiPhoneアプリに変換するFlash CS5の「Packager for iPhone」機能が事実上、利用不可能となったため、これに対するAdobeの次の一手に注目が集まっていた。

 この点については、「Adobe、iPhone向けFlashを断念 Androidにシフトへ」にあるよう、すでにAndroidなどのプラットフォームに注力する姿勢が示されていたが、ロイアコノ氏の口からも、今後Packager for iPhoneの開発について投資しないと改めて明言され、Flashに関するAdobeとAppleの溝は決定的になった。なお、Appleに対する法的措置などの可能性については言及されなかった。こちらの詳細については、「Adobe CEO『Appleはクローズドを選択した』 iPhone向けFlashアプリ変換ツールへの投資中止」を参照してほしい。

マーケッターがクリエイティブワークフローに参加する日が来た

ジェイムス氏。親日家でもある彼はフォトセッションでも「しこは踏まなくていいのかい?」と陽気だった。しかし、かつてNASDAQで最年少のCEOとなったことでも分かるように、そのビジネスセンスは卓越している

 同社の2010年度第一四半期のビジネスユニット別の売り上げを見ると、CS製品が約半数を占めているが、注目すべきは買収したOmnitureの売り上げだ。「第一四半期では記録的な数字を出せた」とナラヤン氏は話し、Omnitureビジネスの売り上げがすでに全体の10%に達していることを明かした。これが今後同社にとっての果実となることは想像に難くなく、2005年4月にMacromediaを買収した以上のインパクトを同社に与えることになるだろう。

 となると、必然的にOmnitureビジネスユニット担当上級副社長兼ゼネラルマネジャーのジャシュ・ジェイムス氏の言葉に注意を払う必要がある。同氏は開口一番「スモウレスラーになりたかったんだ」と流ちょうな日本語で会場を沸かせたが、デジタルアセットを分析→最適化→測定というループにくぐらせることで、マーケティング施策の価値を最大化できると説明、それにより、CMO(マーケティング最高責任者)の重要性が高まるとした。

 同氏は、事例として年間売り上げ1300万ドル増を果たしたデルタ航空のほか、一訪問当たりの売り上げを30%向上させた買う市、メールマガジンのクリック率を700%向上させた翔泳社などを紹介、「開発と提供」で市場をリードしてきたAdobeに、「解析と最適化」で市場をリードしてきたOmnitureが統合することで、ユニークな効果が生み出せると述べた。

 Adobeの製品群は、FXGのサポートやAdobe Flash Catalystの投入などで、デザイナーとデベロッパーのワークフローがようやく統合されたところだが、今後はOmnitureのサービス、言い換えればマーケッターなどのワークフローをどう融合するかが同社の課題といえる。

 これに対する同社の回答は、「まだ買収から間もないため、現時点では部分的な統合だが、継続的に統合を図っていく」というものだった。とはいえ、A/Bテストや多変量テストなどターゲティング手法を検討する「Test&Target」の機能拡張がFlash Professional CS5とDreamweaver CS5ですでに利用できることなどを挙げ、現時点での統合でもかなりの効果が生み出せると強調した。

 今後、統合が進めば、すべてのCS製品で分析→最適化→測定のサイクルが回っていく可能性があり、例えばアートワーク1つに対しても最高の成果を得られる時代がくるかもしれない。なお、ジェイムス氏は楽天がTest&Targetをうまく利用しており、それが参考になるのではないかと述べた。

Adobeの経営陣が日本でここまでそろうのは初だという

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