AmazonのボーゲルスCTO、クラウドは「言葉から実行に移った」と語る

「The Year of the Cloud」と題したカンファレンスで、Amazonのクラウド事業の立役者がクラウドの現在と未来について語り、「われわれは片手間でクラウドビジネスをしているわけではない」と本気を見せた。

» 2010年06月24日 17時13分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 2010年6月23日、シリコンバレーから多くのIT関連ニュースが飛び込んできた。

 2つの大きなITカンファレンス(GigaOm Structure 2010とO'Reilly Velocity)が同時に開催されたのに加え、訪米中のロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領一行の車列が、サンフランシスコとサンノゼを結ぶ高速道路Bayshore 101号線で朝の通勤ラッシュにぶつかって交通渋滞を引き起こし、多くのドライバーをいら立たせた。

 メドベージェフ氏は米Twitter、米Cisco Systems、米Appleを訪問した後、スタンフォード大学で講演を行った。だがオム・マリク氏主催のStructure 2010を訪れる機会は逃した。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のミッションベイ・カンファレンスセンターで開催された同カンファレンスにはIT業界のトップリーダーらが出席し、クラウドコンピューティングの登場および今後の業界の展望について意見を交わした。

 カンファレンス初日に登場した出席者の中でも、とりわけ大きな影響力を持っている業界リーダーがAmazonのワーナー・ボーゲルスCTO(最高技術責任者)だ。イベントの司会者を務めた米AT&Tのジョー・ワインマン氏は、同氏を「ミスター・クラウド」と紹介した。

 6月23日と24日の講演予定者のリストには、米VMwareのポール・マリッツCEO、米Salesforce.comのマーク・ベニオフCEO、IBMのクラウド事業責任者のエリック・クレメンティ氏、MySQLの元CEOで現在は米Eucalyptus SystemsのCEOを務めるマーティン・ミコス氏、米Facebookの技術ディレクター、ジェイ・パリーク氏、米NetAppのクラウド部門の責任者バル・ベルコビッチ氏といった人々が名前を連ねている。

 2006年にクラウドストレージとクラウドインフラのサービスを公開して以来、これらの販売でAmazonを世界のリーダーに押し上げた立役者のボーゲルス氏は、この12カ月間におけるクラウドコンピューティングの最大の変化は「言葉から実行に移ったことだ」と述べた。

 「まず、クラウドは至るところに存在するようになった。クラウドはもはやコンセプト検証テストの段階にはない」とボーゲルス氏は語った。「それは既に現実の技術として利用されており、企業はそれによって大幅な経費節減を実現している。新興企業の登場や雇用の創出も促しており、クラウドの成長の勢いは当分、衰えそうにもない」

 さらにボーゲルス氏は、Amazonのビジネスモデルへの批判に対して、慎重に言葉を選びながら反論した。

 「われわれは、小売り事業の副業として余分なコンピューティングサイクルを売っているだけだと批判されることがある」とボーゲルス氏は会場を埋め尽くした聴衆に語った。

 「しかし、われわれはこのビジネス分野に膨大な投資をしてきた。この事業は、当社の主力事業である小売りビジネスに匹敵する規模、あるいはもっと大きな規模に成長すると考えている。われわれが片手間でクラウドビジネスをしているという批判は、真実から懸け離れている」(同氏)

 ボーゲルス氏によると、クラウドコンピューティングをめぐる迷信はFUD(恐れ、不安、疑念)へと発展したが、この2年間でそういった迷信はほとんど消滅したという。

 「クラウドは信頼性とセキュリティに欠ける、コスト面のメリットしかない、ユーザーが特定企業に縛られる――こういった批判はすべて誤りであることが立証された」とボーゲルス氏は語った。「革新的な製品が市場に登場するとき、そこに必ず迷信が生まれる」

 「1980年代に活躍したジーン・アムダール氏を思い出していただきたい。メインフレームを製造する巨大企業で働いていた彼は、より高性能で低価格のコンピュータを開発できると考えたが、その会社では誰からも支持を得られなかったため、自ら会社を設立した。彼は実際に、より低価格で高性能のメインフレームを開発し、元の会社がその当時にかき立てたFUDをすべて吹き飛ばした」(ボーゲルス氏)

 「クラウドも同じ道を歩んでいる」と同氏は話す。

 Amazonは5月、新サービス「Virtual Private Cloud(VPC)」を欧州で発表した。ボーゲルス氏によると、VPCは企業の既存のITインフラとAWS(Amazon Web Services)クラウドをセキュアかつシームレスにつなぐブリッジだという。

 企業はVPCを利用することにより、VPN(Virtual Private Network)コネクションを通じて既存のインフラを個々のAWSコンピューティングリソースに接続するとともに、セキュリティサービス、ファイアウォール、侵入検知システムといった既存の管理機能をAWSリソースによって拡張できる。

 VPCは現在、Amazon EC2(Elastic Cloud 2)と連係しており、将来的にはほかのAWSサービスとも連係する見込みだ。すべてAWSと同様、VPCのユーザーは使用するリソースの分を支払うだけでよい。

 「われわれは、ユーザーが自社のコンピューティングサイクルを無駄なく使い切るのを手助けしたいと考えているだけだ。そのためには、われわれのコンピューティングサイクルを2セントで売ることになってもいい」とボーゲルス氏は述べた。

 「企業がITシステムを最大限に活用するために社内のすべてのサーバを常に使用しているのでなければ、リソースを無駄にしていることになる。サーバをスピンダウンしたり、電源を切ったりするというのは、さらに良くない。これらのマシンは帳簿に記載されているからだ。インフラの無駄に加え、そのコストも無駄になるのだ」(同氏)

 Structure 2010は6月24日まで開催される。

企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック

Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.

注目のテーマ