ラジオで無線データ通信――新興国がみせる“型破り”のソリューションImagine Cup 2010 Report

Imagine Cup 2010のソフトウェアデザイン部門はいよいよファイナリスト6チームが決定した。アジア勢を中心に新興国が残った本大会だが、電波を利用した無線データ通信システムを手がけるニュージーランド代表はレトロながらおもしろいソリューションだ。

» 2010年07月08日 00時42分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 ポーランドの首都ワルシャワで開催中の学生向けITコンペティション「Imagine Cup 2010」。ソフトウェアデザイン部門で日本代表チームの上位進出はかなわなかったが、むしろ特筆すべきは、先進国と呼ばれる国々、あるいはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)といった国々は軒並み姿を消している点だ。

 現地時間の7月5日に発表された、ソフトウェアデザイン部門のファイナリスト6チームは、フィンランド、マレーシア、ニュージーランド、セルビア、シンガポール、タイ。ファイナリストの発表前には、ショーケースという形で各国の学生が展示を行った。

 その中で記者の興味を引いたのは、ニュージーランド代表の展示。オークランド大学の学生である彼らが選択したテーマは「普遍的初等教育の達成」。インターネット回線も電話線も存在しないような発展途上国の国で、教材をどのように配布するかという部分にフォーカスし、電波を利用した無線データ通信システム「One Beep」を披露していた。

電波を利用した無線データ通信システム「One Beep」はラジオを使うという逆転の発想だ

 仕組みとしては、さまざまな種類のデータを音声データに変換し、それを電波に乗せてデリバリーしようというもの。その送受信はAM/FMラジオで行い、再びコンテンツに変換するというものだ。全体のコストを低く抑えるため、ラジオの使用のほか、OLPC(One Laptop per Child)などと組み合わせて使うことを想定している。展示では、テキストデータの送受信を行っていたが、あらゆる種類のデータに対応できるとチームメンバーのカヨ・ラカディア氏は話している。なお、データ転送速度は現状1Kbps程度とのこと。同様のコンセプトのシステムとしては、Radio Data System(RDS)などもすでに存在するため、とりわけ目新しいというわけでなないが、通信プロトコルなどは独自に開発している点や、特別な受信装置を必要とせず、一般的なラジオとPCを接続することですぐに展開できるのが強みとし、実現可能性に自信を見せた。

 過去、南アフリカの通信会社がジョーク系RFCである「鳥類キャリアによるIP」(RFC 1149)を実際に試してみたら、インターネット回線の速度を上回ったという報道があったことをご記憶の方もおられるかもしれない。それほどまでに発展途上国の通信環境は劣悪であり、それをラジオという日本人の感覚からすると古めかしく感じられるデバイスを利用して解決しようとしている点が、逆に新鮮だった。

マレーシア代表のソリューションは毎日の食事の最適化計画を設計/提案するもの。ミレニアム開発目標のテーマとは少し異なる印象もあるが、UIは使いやすく設計されていた

 プレスの間では、このOne Beepのアイデアを評価する声も多いが、BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)を採用したソリューションを持つセルビアや、Microsoftの先進的なテクノロジーを積極的に活用し、美麗なUIを作り上げたマレーシア、さらには、各専門分野からメンターを6人もそろえたシンガポールなど、いずれも上位に恥じないソリューションを有している。

 7月6日はワルシャワ観光を楽しんだ学生たちだが、現地時間の7月7日には、ワルシャワ市内のオペラハウスで最終プレゼンテーションが行われる。それまでのラウンドと異なり、最終プレゼンテーションは1400人もの大観衆の前で行われる。優勝チームの発表は、7月8日の予定だ。

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