社内クラウド化を進めるEMC、ITリソースのサービス展開に取り組む

企業にクラウドコンピューティングの導入を提唱しているEMCが、社内クラウド化の取り組みや実績を紹介し、クラウドの方向性を説明した。

» 2010年08月31日 07時45分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 「クラウドコンピューティングとは、コンピュータのリソースを抽象化し、ニーズに応じて柔軟にサービスとして提供する仕組み」――EMCジャパンは、このほどメディアを対象にしたクラウドコンピューティングの説明会を開き、同社が定義するクラウドコンピューティングの意味をこのように紹介した。自社でのクラウド構築の取り組みを例に、クラウドコンピューティングの導入・展開がどのようなものかを解説した。

 同社プロダクト・ソリューションズ統括部長の糸賀誠氏は、まずクラウドコンピューティングが企業で必要とされる背景を説明した。同氏はIDC Japanのデータを引用して、「情報システム部門を中心となって解決する経営課題には“コスト削減”と“新規顧客の獲得”などがある」と語った。だが、平均的な企業のIT部門の予算のうち、72%がITシステムの維持に割り当てられ、上記の経営課題を解決するといった新規の投資に割り当てられるのは28%に過ぎないという。

 また新規のIT投資では、将来の需要拡大を見越してリソースに余裕を持たせた形でシステムが導入されるケースが多い。だが、システムの処理能力に需要が追いつくまでは、投資が無駄となってしまう。さらに需要がシステムの処理能力を超えると、ビジネスの機会の損失が生じてしまう。これまでにIT投資は、需要の変化に柔軟にできないという課題を抱えていた。

 糸賀氏は、こうしたITを利用する経営課題の解決と投資の効率化を実現するための手段として、クラウドコンピューティングが必要になると指摘する。「市場にはクラウドに関連して、SaaSや仮想化などをさまざまな言葉が登場しているが、クラウド本来の意味を整理すると先に挙げた定義になるだろう」(糸賀氏)

 クラウドコンピューティングは多くの企業から注目されてはいるものの、糸賀氏によれば、EMCが定義するクラウドコンピューティングの形態で導入を進めているのは、先進的な企業にとどまる。EMCでのクラウド化は、糸賀氏が取り上げた同社での経営課題の解決に加え、より多くの企業でクラウドコンピューティングが導入されるための先例となることが目的にあるという。

 EMCの情報システムは、社員などの社内ユーザーが約4万8000人、顧客やパートナー企業のユーザーが40万以上という。世界5カ所にデータセンターがあり、ストレージ容量は約9ペタバイトになる。クラウド化は、「IT Production」「Business Production」「IT-as-a-Service」という3つのフェーズに分けて進めている。

EMCにおけるプライベートクラウド構築の歩み

 IT Productionとは、仮想化技術を活用して既存のシステムをクラウドに適した形に整備するものだ。Business Productionでは、整備したシステムをサービスとして提供する上で必要な環境を整備する。IT-as-a-Serviceは、実際にITリソースをサービスとして提供するフェーズである。

 クラウド化に先立ち、同社では2004年ごろから仮想化技術を利用したサーバ統合に着手し、そのままIT Productionのフェーズに入った。このフェーズで製品開発やテストの環境、また、一部のアプリケーションを仮想化し、SANストレージの導入も進めて、2009年にほぼ目的を達成した。現在はBusiness Productionのフェーズにあり、Active Directoryや、DHCP、Microsoft Exchange、人事・財務系システムといったミッションクリティカルなアプリケーションの最適化を進める。2011年以降にIT-as-a-Serviceのフェーズに移行する計画だ。

 IT Productionフェーズの主な実績は、電力およびスペースの削減によるコスト効果が1200万ドル、データセンター設備の削減によるコスト効果が7400万ドルなどとなり、1670台の物理サーバを310台に削減した。IT部門の責任者を務めるITクライアント・サービス マネージャの今成達矢氏は、「経営層のトップダウンでプロジェクトが始まった。IT Productionのフェーズでは多くの“ムダ”を省くことができて驚いている」と話す。

IT Productionフェーズでの実績

 現在進行中のBusiness Productionフェーズでは、400種類以上の業務アプリケーションやツールの55%を仮想化したという。これにより電子メールの受信容量の制限を撤廃するなど、エンドユーザーも体感できるクラウド構築の効果が生まれている。このフェーズでは対象となった1600台のサーバを40台に集約した。

 「仮想化を利用することで、予想以上に物理サーバを減らすことができることが分かった。物理サーバがなくなることはないが、より多くの台数を削減できるだろうと思う」(今成氏)

 今後は2011年以降にIT-as-a-Serviceのフェーズに移行する。仮想デスクトップなども導入して、目的に掲げた柔軟性の高いITリソースのサービス提供を実現する計画だ。また営業支援システムをsalesforce.comに切り替えており、将来的に外部のクラウドサービスと自社クラウドを連携させる「ハイブリットクラウド」の実現の視野に入れる。

「IT-as-a-Service」フェーズで計画する取り組み

 糸賀氏は、「クラウドコンピューティングは既に実現可能な段階にある。冒頭で紹介したような、“必要なときに必要なサービス”を提供するクラウドが多くの企業やサービス事業者に導入されるようベンダーとして取り組みたい」と語っている。

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