Oracle Exalogic登場、Facebookの世界中の処理要求をたった2台のフルラック構成で処理できるOracle OpenWorld 2010 Report

米サンフランシスコで開催中の「Oracle OpenWorld 2010」は、会長兼CEOであるラリー・エリソン氏の基調講演で始まった。エリソン氏はOracleの定義するクラウドコンピューティングについて解説し、それを実現するための新たな製品として、Oracle Exalogic Elastic Cloudを発表した。

» 2010年09月21日 15時37分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

 2010年9月19日、米サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターにて米Oracleの年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2010」が開幕した。今回は、Sun Microsystemsとの統合後初のOracle OpenWorldであり、Sunがこれまで開催してきた開発者向けイベント「JavaOne」との同時開催となったため、これまでの最大規模となる4万1000人を超える事前登録者があったとのこと。サンフランシスコの街中のホテルが、同イベントの参加者で埋め尽くされている。

Oracleの定義するクラウドコンピューティング

 初日の夕方には、早くもCEOであるラリー・エリソン氏が基調講演を行った。最初に彼が指摘したのがクラウドコンピューティングという言葉の、ちまたでのいい加減な使い方だ。「さまざまな人たちが、さまざまな意味でクラウドコンピューティングという言葉を使うので、ちょっとフラストレーションを感じている」とエリソン氏は言い、クラウドコンピューティングは新しく画期的なソリューションなのかと会場に問い掛けた。

「インターネット上でアプリケーションを動かすsalesforce.comとわれわれのクラウドは別物だ」とsalesforce.comを挑発するラリー・エリソン氏

 「salesforce.comをクラウドコンピューティングだと言う人たちがいる。また、AmazonのEC2のことをクラウドコンピューティングだと言う人たちもいる。しかしながら、双方はまったく異なるものだ」(エリソン氏)

 Amazon EC2は、クラウドコンピューティングという言葉を世の中に広く知らしめたものだ。EC2では、LinuxやWindowsなどさまざまなOSが動き、Javaが動き、どんなアプリケーションでもEC2上に構築できる。仮想化の技術を活用することでEC2上で稼働する個々のアプリケーションは完全に分離できるため、障害の切り分けが可能であり耐障害性も高い。仮にほかの人が利用しているEC2上の仮想マシンがダウンしたり高負荷を発生させたりしても、自分の利用しているEC2の環境には影響がない。

 さらに、EC2は仮想化の技術のおかげで拡張性も備えている。そもそもEC2はElastic(伸縮性、柔軟性) Computing Cloudの略であり、動的かつ柔軟に拡張できるコンピューティングだということ。この柔軟性の高い拡張性を備えていることが、クラウドコンピューティングには必要だとエリソン氏はEC2を評価する。

 一方で、Salesforce.comはどうか。salesforce.comの上では1つか2つのアプリケーションしか動いていない。これはインターネット上のサーバでアプリケーションを動かしているだけで、プラットフォームではない。当然仮想化もなされていない。そして、何千もの顧客が同じデータベースを利用している。この状況は「セキュリティモデルとしては、弱い」と指摘する。そして、1つのアプリケーションがダウンすれば、すべての顧客に影響が出てしまうとも言う。誰かが負荷の高い処理をすると他の顧客に影響を与えることになるので、高い負荷の処理は強制的にカットしなければならない。アーキテクチャ上「Salesforce.comは耐障害性の面でも弱い」とエリソン氏は主張する。

 「仮想化を活用している伸縮性のあるシステムと、インターネット上でアプリケーションを動かすというのはまったく違うものだ。しかしながら、世間ではその両方をクラウドコンピューティングと呼んでいる。OracleはAmazonと基本的に同じものをクラウドコンピューティングと考えている」(エリソン氏)

 当然ながら、salesforce.comにもこれらに関して反論があるかとは思われる。とはいえ、エリソン氏の主張に引き込まれるものがあるのは事実だろう。

Oracleのクラウドを実現するExalogic Elastic Cloud登場

 AmazonとOracleの違いは、Oracleではファイアウォールの内側にあるプライベートクラウドもクラウドコンピューティングととらえているところだとエリソン氏は言う。そして、このOracleが定義するクラウドコンピューティングを実現するための新たな製品として発表されたのが、「Oracle Exalogic Elastic Cloud」だ。これはクラウドコンピューティングを実現するアプリケーション実行のエンジンとしてハードウェアとソフトウェアを統合したものであり、必要なハードウェア、ソフトウェアがすべて1台のラックの中に収められている。ハードウェアとしてはサーバが30台搭載され最大360コアのCPUパワーを利用できる。そして、ネットワークにはInfiniBand、アプリケーションやアプリケーションファイルを入れるストレージが搭載され、これらは高い可用性を実現している。

Oracle Exalogic Elastic Cloudを発表するエリソン氏

 ソフトウェアには仮想マシンに加えその上で動くゲストOSにOracle SolarisとOracle Enterprise Linuxの2つが用意されている。Solarisはもともとエンタープライズ用途に特化したOSであり、Exalogicで十分に活用できるものだとのこと。Oracle Enterprise Linuxについては、Exalogicの持つInfiniBandやフラッシュメモリの技術を最大限に発揮できるよう、Oracleが独自に最適化を施したものだ。

 このExalogicで利用しているOracle Enterprise Linuxには、新たにOracleが開発した独自カーネルUnbreakable Enterprise Kernelが採用されている。「OracleはこれまでRed Hat互換のLinuxを提供してきた。ところが、Red Hatのカーネルではわれわれの要求する性能を発揮できない」とエリソン氏。Red HatのバグをOracleが見つけて報告しても、それがなかなか反映されないこともある。これはLinuxコミュニティーからのフィードバックの場合も同様であり、Red Hatは最新のLinux技術からおよそ4年も遅れたものだとエリソン氏は指摘する。

 そこで、最新のLinux技術を活用した新たなカーネルをOracleが独自開発した。これにより、フラッシュメモリやInfiniBandの性能を発揮し、さらに8ソケットのCPUを搭載するようなエンタープライズ用途のサーバ性能を引き出すことに成功した。これにはSolarisの持っていた技術を採用しているとのことだ。「Red Hatとの互換性を確保したLinuxについて今後も継続して提供していくが、ExalogicやExadataのLinuxにはUnbreakable Enterprise Kernelでいく」とのことだ。

 Exalogicには当然ながらOracleのミドルウェア群も搭載され、クラウドコンピューティングに必要なソフトウェアはすべてそろっている。ただし、データベースは搭載されていないのでOracle Exadataと接続することで、最大限の性能を発揮することになる。ちなみに、ExalogicとExadataの接続にはInfiniBandを利用できる。そして、Exadataと同様Exalogicで利用されている技術も、すべて業界標準に準拠するものだ。

 Exalogicのソフトウェア部分での大きな特長の1つが、Oracle Coherence技術を活用したCache Coherenceを搭載しているところだ。Exalogicに実装される30台のサーバにはトータルで2.8Tバイトものメモリを搭載できる。Cache Coherenceを利用することで、これを個々のサーバごとに利用するだけでなく、1つの膨大なメモリ空間として利用できる。Cache CoherenceはInfiniBandにも最適化されており、フェイルオーバーも迅速に行えるとのこと。アプリケーションを完全に分離することもでき、耐障害性も極めて高いと主張する。

 「データベースマシンのOracle Exadataでは、従来の数十倍から、場合によっては100倍ものパフォーマンスを得ることができた。Exalogicはそこまではいかないが、数倍から10倍を超える性能を発揮できる」とエリソン氏。そして彼が最も気に入っているExalogicに関する性能評価として、HTTPリクエストを1秒間に100万トランザクション以上処理可能だという数字が紹介された。この性能があれば、「ラック2台だけで世界中のFacebookのリクエストを処理できる」と自信を見せた。

 Oracle Exalogicの最小構成は1/4ラックで、最大8ラックまで順次拡張が可能だ。ラックの追加にも手間はほとんど掛からず、その際にディスクやネットワークのI/Oボトルネックは発生しない。ここにも、InfiniBandを単に採用したというだけでなく、それを最大限に活用するためのさまざまな工夫がなされた結果とのことだ。

 昨年のSunとの統合によって生まれたOracle Exadataの発表時にも、エリソン氏は喜々として説明を行っていた。今回のキーノトセッションからも、彼が実はハードウェアやテクノロジー分野について語ることが大好きであることがひしひしと伝わってくる。そして、プレゼンテーションは、その後Fusion Applicationsの話にまで及び、予定時間を1時間近くも超える内容の濃いものとなったのだった。

企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ