わが人生を悔いなく生きるオルタナティブな生き方 永井孝尚さん(3/4 ページ)

» 2010年09月30日 11時30分 公開
[構成:鈴木麻紀,ITmedia]

情報発信のススメ

ICPとしての活動

 IBMの職位は、大きく分けてライン職とプロフェッショナル職の2つがあります。プロフェッショナル職の認定職位の1つにICP(IBM Certified Professional)があり、厳正な審査を経て認定されます。わたしは、2005年にマーケティングのICPになりました。

 ICPに期待される活動の1つがギブバック活動。「わたしがスキルを獲得できたのも周りの方々のおかげ。それを社会にお返ししよう」という考え方です。活動の手始めに、わたしはブログを書こうと考えました。広報に確認したところ、「IBM ソーシャル・コンピューティングのガイドライン」にのっとればOKという回答と、ITmedia オルタナティブ・ブログに応募してみないかと言われ、2006年2月から執筆することになりました。

 いまではブログを書くのは生活の一部です。毎日自分の考えをまとめて書くのは、とても良い訓練になりますし、月例のブロガー会議はIT業界のさまざまな人たちと出会える貴重な場です。ここで知合った人たちとは、さまざまな形でお付き合いをしています。学生に戻ったような不思議な感覚です。

“コネゼロ”からの出版

 以前より、本を執筆したいと考えていました。でもわたしは普通の会社員ですから、出版業界へのコネはゼロ。周りでは「ブログを書いていたら出版の話が来た」という話をよく聞きましたが、わたしにはそのような話はありませんでしたね。かといって自費出版はお金が掛かるし、売るのも大変そうだな、と思っていました。

 そんなある日、印刷会社を経営している友人から「書籍1000部の印刷だけなら30〜40万円で作れる」という話を聞きました。その1週間後、オルタナティブ・ブログの加藤恭子さんのエントリーで、Amazonが販売・配送・集金をしてくれる「Amazon e託販売」を知りました。これで、自費出版できる!

 ところが書き始めて分かったのですが、数千文字のブログや記事を書くのと10万文字の本を書くのとは、まったくレベルが違いました。一貫したストーリーを作り、校正し、と5カ月の苦心の末、最初の本「戦略プロフェッショナルの心得」を出版しました。本が自宅に届いたときは、本当にうれしかったですね。

 2冊目の「朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力」は、オルタナティブ・ブロガーの小俣さんが1冊目の本を編集者に紹介して下さったのがきっかけで、出版に至りました。新任マーケティング担当者として奮闘する主人公の宮前久美は、マーケティングがよく分からなかった30代後半のわたしの姿です。「当時の自分に、現在の自分はどのようにアドバイスするだろう?」と考えながら書きました。

ビジネスパーソンは情報発信すべし

 日本のビジネスパーソンがもっと情報発信するようになるといいな、とわたしは思います。ともするとわたしたちは、アウトプットすることを怖がりインサイダーになっていないでしょうか。一方海外の人たちは、とにかく自分の考えを表明するし、情報発信する。それが間違っていると納得できたら、すぐに修正します。したたかです。でもこうすると確かに自分の考えが向上します。

 グローバルな社会では、自分の考えを表明しないと何も始まりません。だから、まずは日本語でもいいので情報発信。これだけでも日本はずいぶんと変わるし、そういうビジネスパーソンは活躍の場が自然に拡がると思います。

 まずはブログからでもいいと思います。例えば勉強会など、人前で話すのもいいですね。勉強会といえば、わたしは「朝カフェ次世代研究会」という超早朝勉強会を主宰しています。午前6時30分開始で午前8時終了。

 これは、ある日わたしがブログに「超早朝勉強会をしたら面白いかも」と書いたら、オルタナティブ・ブロガーの坂本さんが「ウチのオフィス、使いませんか?」と言ってくださったことがきっかけで、早起き仲間のオルタナティブ・ブロガーたちが中心になって、4月から開催しているものです。会社員や経営者を中心に毎回約30人参加しますが、モラルが高い方ばかりです。「早起きする人は、いい人が多い」という仮説で始めたのですが、今のところ正しいようです(笑)。

 これからの予定ですか? 今、2つの本の企画を温めています。1つはマーケティングについて。バリュープロポジションの考え方を基本に、いろいろなマーケティング理論や事例をコンパクトなハンドブックにまとめたものです。実は、夏休みにほぼ下書きが完成しています。もう1つは「ビジネスパーソンの出版戦略」について。ビジネスパーソンがもっと情報発信できるように、具体的な方法論も含めて書きたいですね。

 出版社は決まっていないので、両方とも電子書籍による個人出版になるかもしれません。電子書籍で出版なんて、最初の本を自費出版した2年前は考えられませんでした。今後も、毎年1冊のペースで本を出したいと思っています。

コミュニティーのススメ

 わたしはコミュニティーをたくさん作ってきました。同じ志を持つ仲間と何かを作り上げるのが好きなのです。お話しした以外にも、かつてはパソコン通信で写真会議室を運営したり、撮影会オフもひんぱんに開催したりしていました。

 仕事では、全国の社内セールスの人たちとある大規模プロジェクトを獲得するためのコミュニティーを作って、数十件のプロジェクトを獲得したことがあります。5年前から事務局長を担当している混声合唱団も、コミュニティーですね。毎週土曜日に都内で練習して、毎年演奏会を行なっています。

 コミュニティーとソーシャルメディアは相性がいいですよね。だから、ブログやTwitter、ホームページはわたしにとって大切なツールです。でもあくまでツール。ツールだけでは何も起こりません。大切なのは志であり共感です。志に人が集まり、共感が人を動かします。コミュニティーを作って運営するのは、これからも続けていきたいことです。

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