IFRSで激変する利益と日本の平準化した利益IFRS of the day

近年のIFRSの改訂は様々な分野に及んでいます。これらの改訂により企業の業績の見え方は大きく変わってきています。特に利益の見え方は大きく変化しています。

» 2010年12月22日 08時00分 公開
[野口由美子(イージフ),ITmedia]

 日本の会計では、利益については「営業利益、経常利益、当期利益」と段階別に表示します。営業利益は会社のビジネスによる利益であり、売上から売上原価や人件費や減価償却費などを差し引いて計算します。経常利益はそれに本業のビジネス以外の損益を加えたものです。支払利息や受取配当金など財務上の損益がここで考慮されます。さらに、臨時、例外的な特別損益を加えたものが当期利益です。臨時、例外的な損益というと、固定資産の売却やリストラ費用など毎期継続して発生しない項目が含まれます。このような利益の表示方法は日本独特のもので、IFRSや米国基準にはないものです。

 一般的に、企業で、損失はできるだけ下の項目(特別損失として当期利益にのみ含める)に区分して営業利益や経常利益を平準化するという傾向があります。

 また日本基準ではこれらの利益計算に含まれない項目もあります。代表例が「その他有価証券」の評価差額です。その他有価証券というのは、株式など有価証券の会計上の分類の1つで、持ち合い株式が主に当てはまります。そのような株式は、たとえ時価が上がったり下がったりしても、売るつもりもないのに持っているだけで利益や損失を計上するのはおかしい、と日本基準では考えます。そこでこれらの投資を時価評価したときの評価差額は損益として計上しません。

 このように企業はこれまで、利益を平準化するのが望ましいと考えてきましたし、日本の会計基準自体も利益を平準化する考え方で規定が定められています。

 そもそも例に挙げたその他有価証券の会計処理も、IFRSや米国基準を参考に決められたものなので、従来はIFRSでも利益を平準化することが重要視されていました。しかし、近年はこのような考え方は採用されていないのです。以下にその例を挙げます。

有価証券の評価差額 IFRSでも日本基準と同じような考え方のもと、有価証券の時価の変動部分を利益計算から除外していました。しかし、新しい金融商品会計では原則時価評価する有価証券などの変動額はすべて損益とする改訂がなされました(「その他包括利益」にも計上できます)。

退職給付 退職給付は従来の未認識項目が、その他の包括利益として利益計算に含まれることになりました。これまでは数理計算上の差異のうち、一部を毎期償却するという処理が行なわれていましたが、退職給付債務の変動がそのまま利益に影響することになります。

 これらの例によく表れていますが、IFRSでは企業のビジネスがうまくいっているのかということより、株式市場などマーケットの状況で企業の利益は大きくぶれることになります。企業にとってはコントロールが難しい要因で利益が大きく動くことになるので、必ずしも望ましいとは言えないかもしれません。しかし、現在財務諸表の利用者(投資家)から求められている情報とはそういう要因もそのまま含んでいる利益なのです。マーケットのリスクにさらされているなら、それをそのまま伝えてほしい、当期にあった事態をそのまま示してほしい、ということなのです。

 IFRSにより利益は大きく変わります。実態を反映する会計基準とは何なのか、改めて考えなくてはならないと思います。


当記事はブログ「IFRS of the day」から一部編集の上、転載したものです。エントリーはこちら

筆者:野口由美子

公認会計士、イージフ取締役。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。朝日監査法人(現あずさ監査法人)を経て、投資会社にて事業再生事業、M&Aなどに携わる。2006年より現職。決算早期化、国際会計基準対応支援プロジェクトなど、さまざまなコンサルティング分野で活躍。著書に『現場で使えるIFRS導入の実務』(日本実業出版社)。


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