映画「ソーシャル・ネットワーク」が日本でも公開となり、テレビや雑誌でもFacebookが取り上げられる機会も増えてきた。1年前は1冊も見つからなかったFacebook関連の書籍は、昨年末から相次いで発刊されている。今回の書評特集では、その中でも注目の2冊を紹介したい。
1冊目は「Facebookとは何か」を分かりやすく説明した山脇伸介氏の『Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム』(ソフトバンク新書)。2冊目は「ソーシャルとは何か」を分かりやすく説明した斉藤徹氏の『新ソーシャルメディア 完全読本』(アスキー新書)だ。この2冊を読めば、これからネットとリアルの関係に何が起ころうとしているのかが見えてくるだろう。
TBSのマスコットキャラクター「ぶうぶ(@tbs_channel)」のマネージャーとして有名な山脇氏は、2007年からの米国留学でFacebookに出会う。最近使い始めたばかりの人が表面的な説明をする書籍が多い中、実体験に基づいた話はとても分かりやすい。
山脇氏の留学先では、ほとんどの学生が授業中にパソコンを持ち込み、“青い画面”を熱心に見る様子が描かれている。同じ頃、筆者の母校でも“オレンジの画面”を見る学生が大勢いた。最近は“オレンジ”から“水色”になったそうだが、これからは日本でも“青い画面”だらけになるのだろうか。
Facebookが数あるSNSの中で勝者となった理由について、山脇氏は「リアル」「クール」「ムーブファスト」がキーワードだと述べる。本書ではFacebookとマイスペースの戦いについて言及されるのだが、日本でも初期のGREEがmixiに勝てなかった理由は「クール」が原因だったと言えるだろう。GREEはその後、「ムーブファスト」にターゲットを変えることで、mixiとは別の「クール」を勝ち取った。今後、日本のSNSはmixiとFacebookの一騎打ちになるとみられているが、GREEが本来の「リアル」を取り戻したとき、戦いは違う形になるかもしれない。
後半はソーシャルメディアの功罪について語られる。海外で起きた事件の紹介はFacebookの実名原理主義と相まって日本人に不安感をもたらすかもしれない。しかし、Facebookの問題が原因で起きたことと、社会の問題が原因で起きたことは、別々に考えなければいけない。インターネットの登場で情報を隠すことが難しくなったのは現実であり、もう後戻りはできないのだ。本書で引用されたサン・マイクロシステムズ共同創業者スコット・マクニーリ氏の言葉が印象的だった。
「プライバシーは死んだ。そこを乗り越えろ(Privacy is dead. Get over it.)」
ループス・コミュニケーションズの斉藤徹氏による「ソーシャルメディア」についての解説本だ。ITmedia エンタープライズでは昨年9月、「日本企業はソーシャルメディアに取り組むべきか」をテーマに斉藤氏とトライバルメディアハウスの池田紀行のUstream対談を実施している。そちらもご覧いただきたい。
Twitterを使ってみて、世間で盛り上がっているほどの効果は得られなかったと感じている人が多いのではないだろうか。その割には人的コストがかかり、継続は難しいと感じている人もいるはずだ。斉藤氏は、企業がソーシャルメディアに取り組む上で最も重要なことは、何のためにするのかという目的の明確化だと指摘している。ただ使ってみようでは、魔法のような効果は得られないのだ。
一方で、Facebookには今すぐ取り組んだ方がいいかもしれない。人々の生活の基盤になる可能性が高いからだ。そのとき、企業には「参加する/しない」の選択肢はない。企業が人々の生活に根付く活動をする限り、その活動結果は否が応でもソーシャルメディアに反映されてしまう。
ボヤ程度を自分たちで消せるスキルを身につけるのか、大炎上してからソーシャルメディアの作法を学ぶのか、企業はいまソーシャルメディアへの取り組みにおいて重大な決断を迫られている。この話を聞いて危機感を持ったなら、まずは本書の熟読をお勧めする。ソーシャルメディアの大波をうまく乗り越えるため、何をすればいいのかが見えてくるに違いない。
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