そうした業務改善活動と並行して取り組んだのがITシステム改革である。同社ではこれまでMicrosoftのデータベースソフトウェア「Access」を用いて修理部門の業務管理を行っていた。ところが、取り扱う時計の種類や量の増加に伴いシステムが頻繁にダウンした。また、修理品は紙ベースの伝票で技術者が個別管理していたため、担当者の入力漏れによって修理品の進ちょく状況が不明確になったりした。そこで、改善プロジェクトによって修理部門のワークフローが整理されてきた頃合いを見計らって、業務の効率化をさらに促進すべく、修理進捗管理システムを構築した。
新システムは修理工程ごとにデータを入力する仕組みになっていて、段階ごとに修理品の進捗をトラッキングできるようにした。データは技術者の作業を簡便にするためにバーコード入力、あるいは単純なキーボード入力にした。それでも当初は入力しない技術者がいたので、必ず作業時にデータ入力することを人事評価に組み込み強制力を持たせた。
その結果、データ入力は数カ月のうちに技術者に習慣化されるとともに、「入力画面のフォントを大きくしてほしい」「入力エラーが分かるようにしてほしい」といった技術者からの要望や提案も出てくるようになった。「社員の声をベースにして、システムはどんどん改良されている」と秋田氏は話す。
新システム導入の効果はすぐに表れた。修理品の処理件数は倍増し、月間5000本以上が可能になった。生産性の向上によって売り上げも増加、再び同社の中核事業として欠くことのできないほどに成長した。
新システム導入の成功ポイントについて、秋田氏は「ITを導入しなくてはとすぐに飛びつくのではなく、まずは自社に必要なものは何かを把握することが肝要だ。そして、そのシステムがいかに業務に必要か社員に実感してもらわないといけない。いくら便利でも自分に必要ないと思ったら社員は使わないのである」と力説する。
同社のITシステム改革はこれで終わりではない。2008年半ばからアドバイザーとして同社を支援するITコーディネータの阿部満氏は、「修理部門は軌道に乗ったが、会社全体でみると、店舗営業と販売部門のてこ入れが必要だった」と述べる。具体的には、同社の注力事業を強く明示するためにWebサイトをリニューアルしたほか、顧客に対するサービス向上を目指し、進捗管理データベースと連動した企業間連携システムを構築した。
同システムでは、顧客が修理の進捗状況を閲覧したり、商品の修理履歴を確認したりできるようにした。顧客は店舗にある端末などから専用サイトにアクセスし、IDとパスワードを入力するだけで修理品に関する情報をリアルタイムに得ることができる。「今後はスマートフォンなどの端末にも対応することで、さらに顧客満足度を高めていきたい」と秋田氏は意気込む。時計修理業界では、いまだ多くの企業がメールやFAXで受発注を行う中において、共栄産業の先進ぶりには目を見張るものがある。
共栄産業の例を見ても分かるように、中小企業のIT活用がうまくいくためには、業務改善とセットに考える必要がある。「業務改革なしでITを導入しても失敗する」と阿部氏は強調する。ただし、業務改革の根底にあるのは、サービスの提供先である顧客だともいう。
「ITを導入する最大の目的は、業務を改善し、顧客を喜ばせたり満足度を上げたりするためである。そこにつながっていない限りはどんなシステムを導入しても成功しないのだ」(阿部氏)
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