節電にも効果的なテレワーク普及の勘所Weekly Memo

大震災をきっかけに、安全確保や節電効果が期待できるとして、テレワークが注目されている。そこで今回は、テレワーク普及の勘所について考えてみたい。

» 2011年04月04日 07時40分 公開
[松岡功,ITmedia]

「働き方の変革」を問うテレワーク

 「昨年秋に導入した在宅勤務制度を、大震災後の混乱時に生かすことができた」。

 サイボウズの青野慶久社長は3月30日に同社が開いた事業説明会でこう語った。在宅勤務制度の導入でテレワーク環境を整備していたことで、大震災後の混乱の中でも社員全員が自宅でもそれぞれの業務を継続できるような体制が迅速にとれたという。

 事業説明会に臨むサイボウズの青野慶久社長 事業説明会に臨むサイボウズの青野慶久社長

 同じく昨年から在宅勤務制度を導入している日本マクドナルドも大震災後、東京都新宿区の本社に勤務する社員約700人のうち、災害対策の担当者数十人を除いた全員を原則として在宅勤務にした。社員は業務用パソコンを自宅に持ち込み、支障なく仕事を続けることができたという。

 両社のように、今回の大震災で在宅勤務を適用した企業が数々見受けられた。共通するのは、社員の不安感に配慮した姿勢だ。とくに都心に通勤する会社員にとっては、計画停電や余震などへの不安がつきまとった。在宅勤務はそうしたストレスの軽減につながっている。

 今後、前回の本コラムで述べたように本格的な「計画節電」への取り組みが始まる中で、在宅勤務をはじめとしたテレワークは、節電にも効果ある働き方の1つとして大きく広がっていく可能性を秘めている。

 そこで今回は、テレワーク普及の勘所について考えてみたい。テレワークは日本でも1990年代から話題に上がっていたが、実際のところ、これまであまり普及は進まなかった。

 少し歴史を紐解くと、テレワークは1970年代に米国において、エネルギー危機とマイカー通勤による大気汚染緩和を目的に始まり、1980年代に入ってパソコンの普及や女性の社会進出が活発化して注目を集めるようになった。

 にもかかわらず、日本において普及が進まなかったのは、テレワークの本質が「働き方の変革」であるだけに、行政、企業、個人(社員)のすべてに関するさまざまな課題をクリアする必要があったからだ。さらに、情報セキュリティ面での懸念が普及の足かせになってきた側面もある。

 とはいえ、行政サイドでは2002年ごろから実態調査などを進め、2006年に打ち出したIT新改革戦略でテレワーク普及を重要課題として掲げるなど、これまでかなりの力の入れようを見せてきた。

求められる働き方の変革に向けた意識改革

 行政がテレワークに力を入れているのはなぜか。この分野を管轄する国土交通省のサイトに掲載されている説明によると、「家庭生活との両立による就労確保、高齢者・障害者・育児や介護を担う者の就業促進、地域における就業機会の増加等による地域活性化、余暇の増大による個人生活の充実、通勤混雑の緩和等、さまざまな効果が期待されている」からだ。

 影響する範囲が広く、さまざまな行政施策とも密接に関連するだけに、行政が普及への環境整備に乗り出すのは必然だろう。また、さまざまな効果が期待できるテレワークは、行政サイドにとっては“改革の旗印”に掲げやすい。

 こうした行政サイドの積極的な姿勢もあり、ここ数年、テレワーク環境を整備する企業は少しずつ増えつつある。ただ、普及のテンポはまだまだスローなままという感じだ。

 では、今後テレワークが普及していくうえで、何が勘所となるのか。先ほどテレワークの本質は「働き方の変革」にあると述べたが、最大の勘所はそれに向けた意識改革にあるのではなかろうか。それは企業も個人(社員)も然りだ。

 冒頭でコメントを紹介したサイボウズの青野社長に、そうした意識改革を踏まえて在宅勤務をうまく実施するポイントを聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。

 「まず重要なのは、社員に目的意識を明確に持たせること。在宅勤務で仕事をここまで進めるという目標を持たせ、その成果が周りにも見えるようにする仕組みづくりが必要だ。そうすれば、周りへの波及効果にもなる。それとともに、組織の中で普段から信頼関係を築いておくことも非常に大事。もし信頼関係が築けていないチームで在宅勤務を適用すると、不信感が高まるばかりになりかねない」

 キーワードは「目的意識」と「信頼関係」だ。また、テレワークに詳しい経営コンサルタントが、こんな話をしてくれた。

 「企業の多くはまだテレワークについて、育児や介護を担う社員に対する福利厚生の施策という意識が強い。そうではなく、社員個々に最高のパフォーマンスを発揮してもらうための働き方の選択肢を提供するのだという認識が必要だ。一方、社員もそれに応える責任があることを肝に銘じるべきだ」

 まさに働き方の変革に向けた意識改革が、企業にも個人(社員)にも問われるわけだ。加えていえば、社員としての責任を全うするためには、意識においてもスキルにおいても、それぞれの仕事のプロであることが求められる。

 テレワークが今後、社会に根付いていくためには、行政や企業による制度・仕組みづくりはもちろん、職場における理解やプロの仕事人育成が欠かせない。折しも今回の大震災をきっかけに、テレワークは幅広いメリットの一端が見直され、注目されている。この機会にテレワークの本質をしっかりととらえて、幅広いメリットを大きく引き出していきたいものである。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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