【最終回】ビジネスをリードするIT部門を目指して未来のために働くIT部門となれ(2/2 ページ)

» 2011年09月07日 08時00分 公開
[松元貴志,ITmedia]
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What”:必要とされるIT能力の定義

 このステップでは、どのような能力が必要とされるかを定義する。主な目的は、ITビジョンとITビジョンを達成するために必要となるIT能力の優先順位を定義することである。このステップで答えるべき質問は、以下のようなものである。

―競争優位を確立するために、どのような事業目標が掲げられているか。

―ITの戦略ビジョンはなにか。またITビジョンは事業目標達成にどのように関係しているか。

―ITビジョンを実現するために、現在のIT部門に不足する機能は何か。

―将来のあるべき状態を実現するために、どのようなIT能力が必要か。

“How”:目標とするIT組織の設計

 このステップでは、将来必要となるIT能力を適切なIT組織で実現するために、どのような体制でIT能力を提供するのかを定義する。答えるべき質問は、以下の通りである。

―必要とされるIT能力を提供するために、IT組織はどのように体系化するべきか。

―IT組織は事業側とどのように協力すべきか。

―効率を向上し、革新を後押しするために、ITを統制するプロセスはどのように変えるべきか。

“How much”:あるべきコストモデルの構築

 このステップでは、主にIT能力を提供するために必要なコストを定義する。答えるべき質問は、以下の通り。

―現状を維持するために必要なITコストはどの程度の金額か。

―今後必要とされるサービスを提供するためには、どの程度のIT投資が必要か。

―求められるITサービスを提供するために、追加的に必要なITコストはどの程度の金額か。

変革ロードマップの策定

 このステップは、変革の実現プランを描くことを目的とする。答えるべき質問は、以下の通り。

―最終的な状態に到達するために、通過すべき重要なマイルストーンは何か。

―それぞれの取り組みの実施時期に影響を与える依存関係や留意点は何か。

―IT部門は社内でどのような存在として認知されるべきか。

―チェンジマネジメントの観点からどのような取り組みをすべきか。

 われわれが支援したアパレル企業では、上記のステップを経て、将来のITビジョンとそれを実現するために必要となるIT能力を明確にし、これらを実現していく過程を財務面から表現したITコストモデルに落とし込んだ(図3)

<strong>図3</strong> 将来のITコストモデル 図3 将来のITコストモデル

 この企業では、複雑になった基幹システムを刷新しメンテナンス効率を向上しつつ、同時に業務プロセス改革を実施、ビジネスへの貢献を果たすことを計画している。また、既存システムの運用だけでなく、アプリケーション保守までアウトソーシングし、既存システム運営に必要な要員を縮小することで、変革プロジェクトに従事するIT社員を増やす予定である。

 さらに、このプロジェクトを通して、IT部門内には、未来志向、ビジネス志向で考えることが浸透し、IT部門は、経営、事業部門との間で戦略を検討するという高いポジションを獲得することとなった。

未来のために働くIT部門を目指して

 変革を成功させるためには、到達すべき状態と、そこに至る道のりを周到に準備すべきことを説明したが、その中でも日本企業において特に重要となる点の1つが、「あるべきコストモデルの構築」である。

 コンセプトやビジョンはあるが変革が思うように進まない日本企業の事例を見てみると、目標とする状態を金額にきちんと換算して目に見える形にしていないことが多い。経営や事業部門と適切にコミュニケーションするためには、IT部門が目指す姿とそこまでの道のりを、金額換算してきちんとモデル化することが重要である。

 コストモデルを示すことによって、変革には適切なIT投資が必要であることを経営に認識させることができるし、既存システムの維持にかかるコストは効率化によって年々費用を圧縮していく方針を共有できる。このように、誰もがはっきりと認識できるモデルを示すことによって、「現在、過去のための仕事」から「未来のための仕事」にシフトすることが社内で確実に共有できるのである。

 この記事を読んだ皆さんが、勇気と希望を持って未来への第一歩を踏み出すことを祈りつつ、連載を終えたい。


著者プロフィール

松元 貴志(まつもと・たかし)

A.T. カーニー 戦略ITグループ マネージャー

1989年株式会社リクルート入社。インターネットベンチャーを経て、2002年A.T. カーニー入社。IT戦略・ ITマネジメント、企業変革・チェンジマネジメント、営業戦略・実行支援を中心に、多くの企業や金融機関を支援


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