「低遅延処理システム実現のカギはミドルウェア」――InformaticaMaker's Voice

証券取引システムには限りなく“ゼロ”遅延の処理が求められる。物理的な解決策がほぼ取り入れられ、時間の遅延をさらに短縮するにはミドルウェアの活用が重要だという。

» 2011年09月15日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
カート・クライン氏

 2010年初頭に稼働した東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead」は、世界最高水準の高速処理を実現したシステムとして注目を集めた。株式売買市場ではグローバル化が進み、取引量も増加。取引処理のわずかな遅れが大きな損失につながるようになった。金融・証券分野のシステムでは処理の高速化――遅延を限りなく“ゼロ”に近づけることが至上命題となっている。

 こうした金融・証券分野のシステムにおいて、米Informatica メッセージングビジネス部門 アジア太平洋地区メッセージング製品担当ディレクターのカート・クライン氏は、受発注データの受け渡し処理を高速化するミドルウェアの利用がカギを握ると話す。

 同氏によると、例えば証券取引システムで低遅延処理を実現する場合、(1)システム間の物理的な距離を縮める、(2)高性能ハードウェアの導入、(3)アプリケーションでのアルゴリズムの改善、(4)データの受け渡しの高速化――などがポイントになる。

 (1)では既に多くの証券会社が取引市場の施設内もしくは近隣にシステムを設置するようになり、(2)の動きにも積極的である。(3)でも各社が世界中から優秀なエンジニアの獲得を進めている。低遅延化の成因(1)〜(3)が大半を占めるが各社が同様に取り組んでおり、(4)が差別化のポイントになるというのがクライン氏の意見だ。

 同社は2010年にメッセージ交換技術の29Westを買収し、「Ultra Messaging」という名称でソリューション提供を開始した。遅延がわずか6ナノ秒というのが特徴だという。29West時代を含む顧客企業は、金融機関や証券会社、取引所など160社に上る。地域別では約8割を欧米が占め、アジアは2割程度となっている。

 クライン氏は、欧米市場では同氏が提唱するミドルウェア活用が進んでおり、IBMなどのライバル企業と競争下にあるが、アジア市場では欧米ほどには進んでおらず、ビジネスチャンスがあると期待する。東証のarrowheadのようなシステムを構築した取引所はアジアにはまだ少ない。アジアでは唯一、日本が欧米と同様の状況にあるといい、Informaticaは東芝ソリューションと協業して低遅延システムの提供を進める。日本国内や日本とつながるアジア他国での同社のシェア拡大が狙いだ。

 「全米3位の取引量がある証券取引所のDirect Edgeは、2007年にUltra Messagingを導入して低遅延化を図った。2008年の“リーマンショック”の際に取引量が爆発的に増えたが、遅延が増すことはなかった。低遅延化をしていなければ取引処理が停滞し、証券会社に深刻な損失が発生していたかもしれない」(クライン氏)

 マイクロ秒単位のような低遅延処理が求められる分野は、金融・証券以外にも広がると同氏はみる。「航空・宇宙産業のような特殊な分野でもこうしたニーズは強く、身近なところではオンラインゲームの世界も同様だ」。金融・証券分野のような低遅延化ニーズの動きが今後注目される。

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